裏の丘の一角、くぬぎ林の地面に、ねんぼろが生えている。

「ねんぼろ」とはヒガンバナ科ネギ属の、要するに野生の葱である。野蒜(のびる)の方が一般的で、ねんぼろは信州での呼び方。土手やあぜ道、この列島のどこにでも、にょろにょろと生えている。ふるくは万葉の歌にも登場する身近な食材。いまの「はしり」の時期なら、玉葱状の球根から葉っぱまで、ぜんぶ味わえる。
春だ。こいつを味わおう。

醤油に鰹節、あるいはマヨネーズ和え、いろいろあるだろう。僕は、青唐辛子を漬け込んだ信州ならではの味わい、『こしょう味噌』を使ってみる。
(註・松本あたりでは唐辛子のことを「こしょう」と呼び、焼き鳥屋なんかでも七味くれ! の意味で「くしょうくれねぇか」などと言う)
この『こしょう味噌』だが、我が冷蔵庫の奥には10年ものも秘蔵してある。これは長男坊主が生まれた年にこしらえたやつで、濃厚にして芳醇、コニャックのような芳香もまじえ馥郁たる香りを放つ、まさにヴィンテージ。こうした長期保存が可能な理由は、活きた本物の味噌を使うこと、そして火入れしないこと。
この青唐辛子の味噌、肉類との相性に破壊的な威力を発揮する >>
過去記事 のだが、さておき今回は肉ではなく「ねんぼろ」が主役だ。

ねんぼろは泥を落としよく洗っておく。

エシャロットのようにかぶりついても良い。が、今回は粗く刻んで愉しむ。

時間を置いてはいけない。葱のなかまの味わいは、刻んだ瞬間に揮発してゆくのだ。僕が時々、おもに豚骨ラーメンという場面において、「葱はいかなる場合においても青ネギで、しかも
絶対に刻みたてでなくてはならない」と主張するのは、こういう理由からだ。
とにかく、青唐辛子の味噌に刻んだ端から混ぜ込んでいく。

ねんぼろを潰さないように、味噌で包むように丁寧に混ぜて...

あぁぁ.....
酒が進んでしょうがない。一升ぐらい、ぺろりだ。そのあとの飯も、二合。
でもね、器に盛ってテーブルに出す時は、ごくわずかな量に留めておく。大半は中が見えないタッパに詰めて、先に冷蔵庫に隠しておくんだ。家人やばあさまには「これしか、無い」と思わせておくようにね。