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その男、薮の彼方に消ゆ

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2013年 03月 16日

貝めし〜北海旅情編〜


十代の終わりから何度か、僕は各地を放浪の旅に過ごしていた。

北海道の函館から歩き始めたその年の旅。小樽、札幌を過ぎて旅の費用は尽き、帰京するか否か、悩みながら海辺を歩いていた。寝床はテントだからなんとでもなる。しかし空腹だけは我慢ならず、真剣に、旅を止めて帰ろう、そう思い始めた頃だった。

ある小さな港町の水産加工場で、僕は臨時の職を得た。

きっかけは、ひとりの小柄なおばちゃんが、街道を歩いていた僕に話しかけてくれたことだった。でかいザック、たしかMILLETのフレームが入ったやつだった。そんな姿を見ることも少ない北海道の浜辺で、おばちゃんは僕に冷たい飲み物と飯を恵んでくれて、「あたしが居る加工場を紹介してやろうか?」と連れて行ってくれたのだった。

聞けば、夏にホタテの赤ちゃん貝を採ったり選別したり、人出が足りなくなるそうだ。

仕事場は港の倉庫のようなところで、テント暮らしで良いと言う僕のことばは退けられ、空いている倉庫の宿直室のような部屋をあてがわれた。水平線を窓から眺める、快適な部屋だった。朝は夜明け前に起きるが、夕方は早く解放され、僕は窓からの眺めに飽きもせず、時の移ろいを愉しんでいた。

ここでの日々を書けば、ひとつの物語になるだろう。でもそれは本稿の趣旨じゃない。



港町で暮らした日々で、僕はホタテ貝の炊込みご飯をよく作った。自分の分だけでなく、大きな釜でも炊いた。目の前の海の豊穣な恵みに慣れ親しんでいるはずの漁師さんやおばちゃんたちも、僕が炊いた炊込みご飯を「美味い美味い」と、誉めてくれた。そんなこと、すっかり忘れていたけれど、缶詰売り場でホタテの貝柱缶を見つけた時に、どどどどって、思い出してしまったんだ。

次なる缶詰炊込みご飯は、貝柱。貝めし。




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売り場で見つけた【ニッスイ 貝柱ほぐし身】缶。これを、「かにめし〜安曇野望郷編〜」の時と同じよう、わさび漬けと一緒に炊き込んでみよう。


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安曇野コシヒカリ2合を研いでおき、Primusのアルテックポット1Lで段取りする。缶詰をオープンしたら、貝の煮汁だけを、ナベへ。


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旨味の補強に、こんぶ茶をひと匙投入。


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醤油ではなく、蕎麦つゆをたらりと。味の加減は「かけ蕎麦なら、薄くね?」っていう感じ。



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ここへ。

悪魔の晩餐会の主役ともいうべき、わさび漬け。人類三大発明を凌駕する、文明の英知の結晶。
たっぷりと、さあ!



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今宵も働け、僕のトランギア。
青き炎を噴き上げ、美味なる飯を、炊き上げろ!


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クッカーの右、缶詰を、ござんなれ。
貝柱は缶の中に鎮座ましまし、投入の瞬間を静かに待っている。


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強火で約10分、弱火で12分。ここで消火するのだが、貝柱ほぐし身を、湯気立てる飯の上に、ほらっ!





蒸らしを終えて、貝柱ご飯、食卓へ。

ちびどもが蹂躙を始める。
サファリパークの「エサの時間」のようだ.....

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僕が盛る頃には、貝柱は姿も影もなく、旨味をまとった味わいの飯が残るのみ。

嗚呼、それでも美味い!



誰も居ない日を選んで、もう一度こしらえ、味わってみよう。(号泣

by yabukogi | 2013-03-16 17:19 | 喰い物のこと


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