2012年 11月 25日
三峰山山頂、1,887m。天竜川水系と信濃川水系を分つ稜線上にある。背後の水平な地形は美ヶ原の高原台地、左奥の白銀は白馬方面。 少し身体を動かしておこうと、雪道具を携えて裏山の一番奥まった場所に向かう。前日朝に自宅から眺めれば、確かに白い。どうやら雪を冠ったようであるから、足慣らしにちょうど良いだろう。山靴はハンワグのSUPER FRICTION GTXを履いて、念のために爪と刃も用意する。 2012年11月25日。のろのろと布団から抜け出して、身を切るような寒さの中にカブを走らせる。車輪が二つ足りないためかヒーターは効かないし(そもそも窓ガラスが無い)、ハードシェルの下にダウンを着込みバラクラバ+ゴーグルで、まるで稜線に居るかのようだ。僕の場合、山は近いのだけれどこうした事情で登山口までが最も寒い。 扉温泉近くのある場所にカブを置かせてもらい、装備を整える。といってもグローブを換え、ダウンとシェルをザックに押し込むだけだ。 半年前にも使った道なき尾根を、今回も歩く。前回は芽吹きの季節だったが、いまは一面の落ち葉の上を、白い息を吐きながらハイクアップ。林床に雪は無かった。 鹿の鳴く声を幾度も聞く。僕の接近に驚いて、仲間に警告を発しているのだろう。 稜線のトレイル(美ヶ原高原ロングトレイル)に出ると、北側だけ樹氷が。これが、下界からこの山を白く見せていたのだ。ちっ、期待させやがって。 前回は西側の二ツ山方向に向かったのだが、今回は東に取って三峰山を目指す。 笹にも氷の針が。 白き花を咲かせたダケカンバ。 ところどころにくるぶしぐらいまでの雪が残っていたが、そのまま歩き続けて山頂手前に至った。 三峰が示すように、たしかに三つのピークがある。 陽が当たる尾根道には、雪がない。正面に三峰山本峰を仰ぐ。 標高が上がるにつれ、風が強くなってくる。八ヶ岳(権現編笠)、富士、南アルプス。 さらに木曽の山々、御嶽、乗鞍。鉢伏山の右には霞沢岳から穂高、槍、常念、そのまま白馬小蓮華まで白龍がうねるがごとく。スカイブルーが眩しい。まさに、パノラミック・トレイルだ。 風が鳴る山頂。模型飛行機を飛ばしている人たちがいた。ビーナスラインがまだ走れるようで、すぐ下の駐車場に何台か停まっている。風が冷たく、早々に山頂を後にすると、三人のハイカーとすれ違った。山慣れた人たちのようだった。 扉峠方向に下り、トレイルを外れて枝尾根の樹林帯に潜り込む。鹿道の上にあぐらをかいて、さあ、ラーメンタイムだ。 地形図を睨みながらそのまま枝尾根を、倒木を跨ぎ薮を漕ぎ、扉温泉を目指す。一度は鹿道に引き込まれて尾根を外しかけて慌てる。この登り返しでは倒木が多くて、かなり汗を絞られた。 尾根末端の南側急斜面を本沢に降り立つ。堰堤のすぐ下で朱沢と合流。徒渉して少し歩くと、鎮座まします山の神。ここで渡り返しコンクリの橋を過ぎ、林道へ。 林道に飽きる頃、ダム湖の堰堤上を歩き、この日の小さな旅が終わりを迎える。 古めかしい橋を渡れば、カブにキックを見舞って走り出すだけだ。 山間部を抜け、松本市街地を見晴るかすような場所に出る。安曇野の向こうに神々の座をもう一度仰ぎ、部屋のこたつを思い浮かべながら家路を急いだ。 前日に白く仰いだ山に、雪はほとんどなかった。 思い描いていた物事が実際にその場面になってみれば期待と違っている、それが人生というものかもしれない。それでも期待はずれという落胆に陥らず、それなりに楽しませてくれるのが山遊びの奥深さなのだろう。 【追記】 お尋ねもあったので、コース状況のことも少し書いておく。 ■扉温泉〜分水嶺までの尾根 ここはコースではないので、読図や薮漕ぎに慣れた人でないと、辛い。登りならばルートを誤ることは無いだろうが、下りに取れば枝尾根に引き込まれるだろう。歩きやすく気持ちのいい尾根だが、道はないということをご理解ありたし。 ■分水嶺〜三峰山手前 おおむね稜線上か、稜線の北側に付けられている。春先などは残雪が凍っていたりするだろう。一部笹が伸びていたが、コースを埋めるほどではなかった。 ■三峰山直下 痩せ尾根を通過する箇所あり。諏訪側が崩れているところもあったがトラロープなど設置済み。積雪期は少しおっかないか。実際、以前3月末にアイゼンが無くて怖い思いをしたこともある。 ■三峰山〜扉峠方面 ビーナスラインを東側に眺めながらの草原と樹林帯のトレイル。よく歩かれているようで、緩やかにアップダウンが続く。 ■扉峠南からの尾根 薮、倒木ともにしんどい。GPSがないと枝尾根に引き込まれる。僕もそうだった。万一尾根をロストした場合、左右の朱沢・本沢どちらも沢を下れなくもないが、廊下やノドのような箇所もあるので落石も多く危険(以前に遡行して確認済み)。正確に尾根の末端までトレースする自信が無ければ歩かない方が良い。この場合は扉峠から扉温泉まで車道が走っている。 ■尾根の末端から扉温泉へ たっつーさんのご指摘によれば、こんなマイナーblogにもサイレントな女性ファンのお方がおられるらしく、この尾根の末端辺りの歩き方のご説明が不足している旨、苦言を頂戴した。 この尾根を幸運にも迷わず、1572、1536高点と通過してくると1536から真西方向で、薄川の朱沢と本沢の合流点に至る。末端に向けて傾斜がきつくなる尾根筋から、南側の広葉樹の斜面で、堰堤のある本沢の広い河原が見えてくる。この堰堤を目標に降りて行くと、すぐ下が朱沢との合流点。このとき、北側の朱沢側には降りない方が良い。崖になっていて懸垂ロープが要る。 沢の合流点からは右岸(北側)に歩きやすい平坦地がある。やがて林道のようになり、左岸にねる沢(電子国土での表記。このページに張ったYahoo地図では「わるい沢」と表記されている)が入ってくる箇所手前が、山の神様のご神木。コンクリートの橋がねる沢にかかっているので左岸側に渡り、林道がダム湖まで続いている。
by yabukogi
| 2012-11-25 16:51
| 筑摩山地・美ヶ原
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