遅くまで朝寝に微睡(まどろ)んでいると、夢の中にずしりと来た。
胸が突然に締め付けられ、重苦しい気配が部屋に満ち充ちる。壁が、天井が、殺気を孕んで膨れあがる。
悪霊か、はじめはそう思った。
数百年を未だ浮かばれぬ落武者か?
越後の名も無き岩壁で墜死した先輩のKか?
雪の飯豊から十数年を経ていまなお還らぬ岳友のMか?
僕の夢である、よもや乙女のふるえる魂ではあるまい…
アジアの怪しげな草の実を喫んだ訳でもない。自家製の酒を飲んだりもしない。ましてやしばらく家を離れていたから、家人に一服盛られたとも思えない。やはり、祟られて見舞われる金縛りというやつに違いあるまい。
ぬこの仕業か!
ひさしぶりの帰宅であった。長らく家を空けて仕事に明け暮れていたのだ。ふと思い立って家に帰り、惰眠をむさぼろうとしたところに不意討ちであった。ぬこの野郎は僕の朝寝を察知して、そっと気配を消してやって来たのだ。僕が夢の世界に旅立ち、胸郭が規則正しく上下する頃を見計らって、来たのだ。
可愛い奴め。