その男、薮の彼方に消ゆ

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2011年 03月 09日

中央分水嶺・三峰山

雪遊びに出かけた。



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カメラを持って行かなかったので記事にはしないつもりだったけど、同行の『コカゲイズム』のにゃんこ先生がとっても愉快な写真を送ってくれたので、ここにご紹介しておこう。もうひとつ、別な思いもある。もとより安易に、積雪期の中級山岳に遊ぶことをお奨めする訳ではないが、人気集中で混み合う入笠山や北八ヶ岳すぐ近くに、こんな静かな場所があることも知っていただきたいのだ。トレースの無い雪尾根。ノートラックの広大な斜面。小鳥の声だけが響く静寂の森。そこは国道脇の駐車スペースからわずかなハイクで届く、標高1,800m程度の高原の一角なのだ。



2011年3月8日。
外遊び彷徨記』のチャイさんが、ワカン歩行を試したいとおっしゃる。それなら出かけようと、前述のにゃんこ先生と三人、諏訪湖畔から中山道をわずかに走って、和田峠に向った。トンネルを抜けた峠の先にビーナスラインの入り口がある。いまは除雪も入らず、GW前までは雪に埋もれたまま。僕らは空き地にクルマを残し、装備を整えて歩きはじめる。最初から、ワカンを履く。午前07時03分。気温マイナス7度。轍もトレースも無い車道をラッセル。新雪がたっぷりと乗って、このあたりでも膝ぐらいだった。やがて「農の駅」があるスキー場跡地に至る。08時少し前。車道を離れ、かつてゲレンデだった雪の斜面のへりを行く。行く手には緩やかな鞍部があって、そこは中山道の「古峠」。駐車場でも挨拶を交わしたスノーシューの御仁が峠におられた。この先も前後して進みましょういうことになるが、かなりの分、ラッセルのご負担をおかけしてしまった...。古峠までは曇り・無風だったけれど、峠から稜線伝いに北進すると、西からの強い風に叩かれるようになる。ジャケットを羽織り、バラクラバを被る。稜線は緩やかにアップダウンするが、ワカン履きにポールで進む。この日の目的地は、三峰山(1,887.4m)経由、二ッ山(1,826.4m)。







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古峠から先、三峰山へ至る稜線は、中央分水嶺を成す。狭い尾根の西側にぽつりと落ちた雨粒は、横河川となって諏訪湖に注ぎ釜口の水門から天竜の流れを太平洋に向う。一方、東に落ちた雨粒はやがて千曲川に注ぎ日本海へ向う。雨のひと粒に思いも願いも無いだろうけれど、この尾根が流れて行く先を分けるのだ。

補給、と声が掛かってにゃんこ先生が草餅を取り出した。草餅! 冬の山では初めての経験だが、凍ってない! あんこの甘みが有り難く、また食べやすい。最近は「クリームブラン」と炒り豆ばかり携行していたが、草餅とは! これはテルモスを出さずとも短時間で味わえるうえ、腹持ちも良い。今後、ためらいなく真似させていただこう。



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この分水嶺歩きでは、風に乗って雪粒が襲ってくる。僕たちが残すトレースも、どんどん埋まる。樹林は無い。稜線から東の風下はよく茂った針葉樹なんだけれど。この植生は風衝草原と呼ばれるらしく、風が強過ぎて樹木がほとんど育たないのだという。足元は、今は雪に埋もれて見えないが、ほとんど笹。森林限界上のハイマツ帯に似ているけれど、そこまで標高がなくても風衝草原はできるそうだ。げんに美ヶ原も、隣の鉢伏山も、大菩薩や奥秩父の雁峠付近にもある。この日うれしくなってしまったのは、立派な雪庇(せっぴ)までできていたこと。2,000mに満たない裏山とは思えない。



三峰山頂が見える位置まで達したが、あいにく山頂部がガスに巻かれて見えない。距離感も掴めない。時刻は早いので行けるところまで、と風の中を歩きはじめる。徐々に視界は悪くなり、山頂直下ではホワイトアウトしてしまった。地形図とコンパスからは、標高差100m以内、距離は250〜300mと読める。草原のような広々したピークなので、帰りにロストしそうである。やむなくポールを立てて旗竿代わりとし、高い所を探しながら進む。以前来た時の記憶では、山頂のやや北側に一本の針葉樹が立っていて、これが目印になるはずだ。この日もガスの中に樹型のシルエットがおぼろげに浮かんだけれど、三角点も山頂標識も見当たらない。そこで11時ちょうど、にゃんこ先生のアックスを借りて立て、まぁこの辺がほぼ三峰山頂でしょう、ということにした。

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なんとまあ、夏ならばビーナスライン脇の駐車場にクルマを置いて、パンプスを履いても遊歩道を20分ほどの場所なのだ。季節が違うだけでこんなにも楽しめるというワケか...。



当初はここから西に向い、二ッ山を目指すはずだったが、どうやら無理なようだ。三峰から二ッ山に向う尾根道は、無雪期ならば遊歩道みたいなものだ。しかし痩せ尾根、崩壊地、急斜面もあり、この天候・視界では歩けそうもない。時間的なこともあるが、そもそも下降する尾根が何処にあるのかも判らない。結局、僕たちは三峰山のほぼ山頂から引き返すことになる。往路のトレースは消え、またラッセルをまじえながら高度を下げる。相変わらず風は凄まじいが時おり青空がちらりと見える。往路を戻っても良かったが、いいかげん風に打ちのめされたので、すぐ下のビーナスラインに降り、雪に埋もれた車道を歩くことにする。ラッセルは尾根も車道も同じく大変。でもビーナスラインは尾根のすぐ風下側を通っているから風を受けない。11時30分、車道へ。



車道に降りる雪の斜面で空を見上げたら、いつの間にか青空だった。しょうがないね。ビーナスラインは蛇行しながら山腹をうねっていく。あいかわらず膝までのラッセル。地形図を睨み、GPSを起動し、落葉松林の中を突破するショートカットを試みる。こうした樹林帯にはかならず林業関係の「仕事道」があるものだ。だから目印のテープを探せば、倒木や薮を避けて効率的にルートを拾える。とはいえ、冬に入る者とてない林床には新雪がたっぷり。おとこ三匹、雄叫びを上げながら雪にまみれ埋もれ転げまろび、下る。ほどなく13時前、こうしてクルマまで戻ってきた。草餅しか口にしていないから腹が鳴ってたまらない。にゃんこ先生が豚汁を作ってくれて、この日何度も言葉を交わしたスノーシューの御仁も交えてランチを堪能、片付けて帰路に着いた。



たった半日の雪遊びではあったけれど、足を上げる、引き抜く、こうした動作で思いのほかエナジーを必要としたらしい。ベルトの上にしつこく居座って迷惑この上ないポニョが、ちいさく半分ぐらいになっていた。





写真はぜんぶ、『コカゲイズム』のにゃんこ先生。「ベルトの上のポニョ」は放置民軍団のとらじさんのお言葉を借りた。
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by yabukogi | 2011-03-09 08:51 | 筑摩山地・美ヶ原


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