むっちりとした、灰白色の身。
でかい。
ひとつぶが鶏卵大。
ぬらっと、半マットな質感。
てのひらに、冬の広島湾の冷たさが伝わってくる。
ある日、牡蛎が届いたのだ。
ざるに開ける。
水を切ろうと思ったが、さほど落ちない。
するとあの重量、ほとんどが、身か。
持つべきは、友である。
送り主にありがとうと、つぶやく。
フライパンには、エクストラバージンのオイル。
八ヶ岳山麓の六片種にんにく。
そこに投じられた牡蛎の身からは、やがて汁が溢れ出す。
目の前に猛烈なまでの芳香が、立ち昇る。
目眩がするほどの旨味感。
胃袋がよじれるような感覚。
ぷるんとした身は、すこしずつ焼き色をまとう。
煮詰められた汁は、旨味を凝縮させながら身に絡む。
いつの間にか、家族が背後に立ち尽くしている。
背伸びしてフライパンを覗き込む。
身丈のちいさな小豆(あずき・5歳)は、見えないと叫ぶ。
キッチンに充満する暴力的な香り。
大騒ぎして走り回る、ねこ。
僕はフライパンを揺すりながら、酒を呷る。
あたりまえじゃないか!
正気でいられるはずがないだろう?
白ワインを、振る。
じゅうっと響いて炎が上がる。
すぐ後ろで歓声も上がる。
わずかに、塩を振る。
続けて信州産ビネガー。
定番のオイスターソースは少量に留める。
そのかわり、秘蔵のバルサミコ酢の封を切り、垂らす。
広島産牡蛎のソテー、バルサミコ酢仕立て。
この季節なら常温携行が可能。
こいつを携えてどこかの森の中で幕を張り、
ひと粒をぽんと、口に放り込む。
ゆっくりと噛み締めながら、僕はその美味さに嗚咽するのだろう。
そして凍てつく星空を見上げながら、酒を口に含むのだ。
想像を巡らしただけで、胃袋がよじれあがる。