2010年 12月 05日
【注記2011/03/10】 本稿は、当初「喰い物のこと」カテゴリとしていたが、「One Pot Cooking」カテゴリに配置する。One Pot Cookingの概念は、山岳など屋外環境において、ソロクッカーと小型軽量ストーブを使用し、常温携行または現地調達可能な食材のみを素材とし、合理的に簡潔な手順によって感動的に満足度の高い食事内容を実現しうる調理プロセスのことを指す。以上、注記。 ◆◇◆ 食品売り場でFD(フリーズドライ)の味噌汁を見かけるようになって久しい。オフィスでのランチ需要だろうか、ラインナップも増えている。 ある日僕は【かに汁・北海道みそ】と書かれた暴力的なパッケージに出会う。うむ、やはりアマノだ。ためらうことなく数個を手に入れ、炊込み風の炊飯ができないものか、工夫をめぐらせる。 想定は、里山・中級山岳ののんびりウォーク。眺めのいい場所に小一時間もケツを据えて、魂を洗うまろやかな時間のランチだ。北アの稜線でスノウ・ブラストの洗礼を受けながら、という場面ではない。 またアルファ米をスープと混ぜ煮にしてリゾット風というのは当たり前過ぎてネタにならない。ここでは生米を使ってみよう。ということで備忘録に過ぎないが、ある日、炊込みご飯らしきものを作ってみた記録。 準備したもの、またその内容は... (1)無洗米:安曇野コシヒカリ1合 自宅出発前に水に浸してある、という想定。僕は無洗米1合の場合220-230ccを使用する。ここでは50cc程度を米に注ぎ、残りの180ccが(4)のナルゲンに入っている。水に浸した米はジップ袋に密封しナルゲンの中にでも突っ込んで運んだと仮定。 (2)FDのかに汁、アマノフーズの【北海道みそ・かに汁--厳寒の海の濃厚な旨味たっぷり】。今日の主役だ。 (3)生卵。運搬方法がアレだが、まあ専用ケースなり使用したとして。 (4)ボトル。ジップ袋入り生米を運ぶ容器にしても良い。 (5)トランギアの【TR-B25】とさんぽ師匠の手になる【放置台】。 (6)アルコール燃料。この容器を推奨するものではないが、なんとなく僕は100均のアルミ化粧水入れを使用している。 (7)炊飯のキモとなるナベは、DUGの【POT-I】。アルミ・ハードアノダイズドのポットである。ユニバーサルトレーディングのサイトには、「本体650ml」の記載があるが、500mlを沸かすのに適したサイズ。余談になるが、DUGのこのシリーズ、esbitの585mlクックセットに構成されているポットと似てるなあと思ってたら、ハンドルや金具の細部までが同じだった。リベットだけは違うものが打たれてるが、並べて比較したので間違いないだろう。 (8)DUG・POT-Iの蓋。今回炊飯時にこれを蓋として使用すると、飲み物のカップに困る。そこでこのカップは炊飯中に茶でも楽しんでる、ということに。 (9)DUG・TEAの蓋。(8)の理由で蓋だけ【TEA】という別なセットから借りる。後述するが、TEAの蓋は不適ではないがPOTの丸いドーム状の「屋根下空間」の方が美味い飯が炊けることが確認できた。 10は不在であった(11)タイマー。点火から沸騰まで約6分(気温17度C)ぐらい、いつもそうなのだ。詳細は後述するが、沸騰後は弱火で10分、蒸らしで12-15分程度だろう。これは気温、標高の影響を受ける。たとえば3,000mの稜線で飯を炊くと芯が残る。対策としてオイルを垂らすとか蓋に重しを載せるとかあるのだが、まあ3,000mまで上がって生米でもあるまいから、ここでは省く。 ナベに無洗米と残りの水を投入し、トランギアのストーブに点火する。居眠りして忘れないようにタイマーをセット。が、屋外では意外に集中して、ちゃんと沸騰を事前察知できるから不思議だ。 やや酸欠なのか炎が赤い。しかしご覧ありたし。CFアルコールストーブのマイスターがトランギア用にゴトク(放置台)を作ると、ほれ。炎がきれいに収束したところでナベ底を舐めている。熱効率、推して知るべし。 6分が経過したところでぶぶぶぶぶっとナベが噴き出した。一度火から下し、FDかに汁【北海道みそ・かに汁--厳寒の海の濃厚な旨味たっぷり】を投入する。なんとなく塩気が足りないような気がしてソルトをひとつまみ加えている。結果は、もうひとつまみ欲しかった。 約10分間、弱火でナベ内の圧力と温度をキープする。放置台オリジナル作者のいのうえさんも書いておられたが、放置台では火力調節も自由自在なのである。 10分が経過する。フタを取って見ると... 味噌汁の素がふやけてほぐれて、このようになっていた。スプーンで底から軽くひと混ぜ、ふた混ぜ。 いよいよである。例えるならば、前穂北尾根三峰の登り3ピッチ目、まさに核心部と言えるだろう、生卵を割り入れるのだ。そう、蒸らし中に半熟状態になることを期待して! 今回は13分、蒸らしの時間を確保した。スプーンを舐めながら、この時間の長かったこと...。 DUG・POT-Iの蓋に盛る。実際はポットから直接食することになるだろうが、炊き上がりをつぶさにご覧いただきたく、まあ撮影のためということで。 美味い。美味すぎる。 北の海の香りが味噌とともに渾然と溶け合い、玉子の黄身のリッチさをとろりとまとう。 惜しむらくは三つある。まず、塩気がわずかに足りない。これはソルトを増やすことで対応できるが、少量の生味噌を加える、あるいは醤油を垂らしても良い。しかし美味い。味付けがしっかりしているから、おかず無しでもいける。 次に、ややめし粒の立ち上がり感に弱い。ぷりぷりした米の食感がいま一歩。ふだんDUG・POTで炊飯するとぷりぷりに炊き上がるのに... あ。蓋だ。TEAの平たい蓋では、炊飯中に閉じ込めたスチームが充満する充分な空間が得られないのかも知れない。あのドーム型の形状の妙に、ぷりぷり食感の秘密があるのだろう。やはり蓋は本来のセット構成が無難なようだ。 最後にトッピング。残された工夫としては、ネギを刻んで散らすか、もみ海苔を振るか、いや桜海老もいい。荒技としては「たぬきそば」のような揚げ玉を散らすというのもある。これはお好みだろう。 1合をぺろりというのは、小食の方には厳しかろう。女性ならふたりで分けて適量か。 うむ。またひとつ、山飯の逸品がここに誕生した。
by yabukogi
| 2010-12-05 21:06
| One Pot Cooking
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