2008年 07月 21日
この年。海の日に、出かけるならばと山に向かった。 2008年7月21日。 ものすごく暑い日々。 ひんやりと雪渓に冷やされて快適なワンデイの旅。 真夜中に仮眠を打ち切る。重たい身体を起こして、家族に悟られないように身支度を始める。物音を立てないよう、気配を起こさぬよう。パッキングは済ませてある。ザックもブーツもピッケルも、夕方のうちに屋外の倉庫に移してあるのだ。昨夜の夕食が鰻だったことを思い出す。鰻も鰻、松本では「本間」というだけで鰻好きがよだれを垂らす老舗の鰻。僕の分は無いものと期待もせずにいたら、なんとふた切れ、取り分けてあった。これを でかいタッパにぎゅうぎゅう詰め込んだ冷や飯の上に載せる。残っていたタレもかけ回す。無理矢理フタしたタッパを抱え、カブ(リトルカブ)のキックペダルを踏む。松本の家から大町まで1時間半。扇沢までさらに30分。04時に歩き始められるよう、まだ02時すぎだ。 真っ暗な扇沢駅にカブを乗り入れる。地面に座り込んで、心地よくすがすがしい真夏の夜明けの時間を楽しむ。膝の上には、あのタッパ。たぶん2,000kcklを超えているだろう鰻飯を、腹に詰め込む。美味くて涙が出る。 トロリーバスのトンネル方向に遊歩道が続いている。真っ暗で見えないけれど、照らしながら探しながら、足を進める。ヘリポート付近でだんだん東の空が明るむ。木立の中に続くトレイルを、なおも進む。大沢小屋が近づく。夜明け。しかし樹林帯の底は、まだ夜を引きずっている。 やがて雪渓の降り口に着く。ためしにピッケルで雪を突いて見ると下の方が凍ってる。しょうがないのでアイゼンを履き、ピッケルは背中に刺したまま雪の上を進む。針ノ木の雪渓は初めてだけど、ここもベンガラのラインを拾って登って行く。空が青い。真っ青な空に向って純白のラインが詰め上げている。正面に詰め上げている場所は針ノ木の峠ではなく、マヤクボのコルが見えている。のどのところで緩く左へ曲がるのだ。 ノドの手前で、緩傾斜になった箇所があった。振り返ると、雪渓の底からガスが湧き起こっている。 しばらく呆然と、佇む。何もことばが出ない。何度も何度もシャッターを切る。気が付けば、20分近く過ごしている。明るくなって出発したのだろうか。大沢小屋からだろうか。後続のハイカーたちがぞろぞろと上がってくる。けっこうな賑わいである。 この年、峠の小屋の下まで雪が残っていた。夏道を踏まずに、小屋に着いた。 小屋からはまず針ノ木山頂に向う。気持ちの良い岩尾根、ハイマツ斜面、雪田、そしてマヤクボカールのへりを回るように、山頂に立つ。何も言語化できない、展望。劔はガスをまとって姿をさらすことはなかったが、北アルプスの真ん中に立っている感覚を、愉しむ。パノラマを堪能し行動食を頬張り、すぐに峠へと戻る。 蓮華岳にも足を運ぼう。峠からの蓮華への登りは、気持ちのいいトレール。ざくざくと砂礫の道が続く。お宮に柏手を打ち、やがて静かな蓮華岳山頂に至る。大下り方面に、少しだけ偵察。 うおぉぉぉぉぉぉぉ....... コマクサの大群落。これに匹敵するのは、北燕ぐらいだろうか。フレーミングがいい加減で伝わらないと思うけれど、コマクサは写真左下の斜面方向に、どこまでも広がっているのだ。 大下り方面へ登り降りしながら、花を楽しむ。名は知らねども、色とりどりに風に揺れていた。 またいつか、必ず行こう。 こんなに美しい稜線が続く、この星の宝石のような山々を、僕はほかに知らない。 #
by yabukogi
| 2008-07-21 23:00
| 北アルプス・主稜線
2008年 07月 16日
【過去の山歩きについて記載】 なぜか何度も出かけてしまう山、という山がある。 展望がすばらしいとか、尾根道が気持ちいいとか、とにかく近い、とか、いろいろだろう。僕にとっての天狗岩はまさにそんな山で、2.000mに届かない標高ながら、大好きな場所のひとつになっている。松本盆地の片隅の小さな谷から分け入って、4時間ぐらいで降りてくるような小さな山だ。 2008年7月16日にも、ぶらりと歩いている。 松本盆地を見下ろすような、山頂付近の岩。この岩を天狗岩と呼ぶのだろうと、勝手に思い込んでいたが、地形図を眺めてみると、この岩の下にもっと大きな露岩があるようだ。どんな様子なのだろう。 山頂は矮樹とシラビソの木立越しに、穂高・明神の岩峰を望むことができる。が、すっきり晴れて眺めたことは一度もないのだ。 #
by yabukogi
| 2008-07-16 20:00
| 北ア・前衛の山々
2008年 06月 18日
【過去のハイクを記載】 さきに、煙草をやめてすぐに蝶ヶ岳へ行った、と書いた。禁断症状が出たら、蝶ヶ岳の稜線を仰いでこらえるんだとも。期待はずれだったのは、自宅からは蝶ヶ岳が見えない。脂汗が吹き出して全身が震えはじめたときに、眺める対象物が無いことだった、 そこで、晴れていれば窓の向こうにでっかく聳える、常念岳に向かった。2008年6月18日のことだ。 この日、東京から来ていたT氏と行き会い、いまでも手紙のやり取りは続く。 山頂から、やはり視線はこのあたりに向かってしまうのだ。 #
by yabukogi
| 2008-06-18 23:00
| 北アルプス・常念山脈
2008年 06月 10日
2008年 05月 04日
【過去のハイクを記載】 2008年5月4日。僕自身の永い冬眠の時代を終えて、残雪の蝶ヶ岳へ向かう。貧弱な装備、まだ十分ではない体力、それでもとぼとぼと稜線に辿り着き、目の前の岩の伽藍に圧倒された山行であった。 あそこに辿り着くには、もう1年ぐらい身体を鍛え直して、昔覚えた雪上技術を取り戻して、それからだ...。そんなことをぼんやりと考えて、快晴の山頂に過ごす。 穂高、そして槍の美しさと迫力に魅せられもしたが、春霞たなびく安曇野の風景に、息をのんだのだ。 煙草をやめたばかりで、この日はニコチンのことばかり考えて、唇への感触を思い出して、ただただ、辛かったことを思い出す。煙草を持たずに残雪の山を歩いて、歩き通せたら止められると信じて。苦しくなったら蝶ヶ岳の稜線を仰ぎ眺めればいい、そう言い聞かせて。 誤算だったのは、僕の住む松本市街からは、蝶ヶ岳のピークが見えないことだった。 #
by yabukogi
| 2008-05-04 23:00
| 北アルプス・常念山脈
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