その男、薮の彼方に消ゆ

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2013年 06月 02日

山賊たちの野宴

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ある宵のこと。

安曇野に巣喰う山賊が三人、鳥居山に野宴を開く。鳥居山というのは、鳥居を持たないお宮さんのために鳥居の形を模したかがり火が焚かれることで知られる。






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酒を酌もう、そう呼びかけ合って、まだ明るい東屋に集う。それぞれが好む飲み物を取り出し放置式のパンカイ。山談義、野遊びのこと、あれこれ情報交換を重ねながら、東屋のテーブルには次から次へと御馳走が並べられる。これを三人で食するのか.... と勿体無い気もしながら、山賊たちの胃袋はこれらを欲してやまない。




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がつがつ貪り喰らっていたら、視界の隅の方で生野菜が盛られている。その皿にサーモンや鯛の刺身が載せられる。生のアボガドが剥かれトッピングされる。そこへ熱したガーリック・オイルをジュワッと。ほぅ、屋外でこうした趣向もありなのか! 五感に訴えかけてくる味わいと食感を堪能する。




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チーズを振り掛けたペンネが、たまらん。パスタ系の一品があると、酒を選ばず会話が弾む。むかし見た映画でシチリアの紳士たちの昼食風景があったが、テーブルには山盛りのパスタ皿がいくつも置かれていた。紳士たちは組織の「ビジネス」を語りながらトマトソースを愉しんでいるようだった。山賊たちも山遊びを語りながら、これに倣おう。



いつしか初夏の濃密な闇が、あたりを包み込んでいる。ランタンの灯りは、この闇を追い払うことはできない。手元と山賊たちの顔を照らすだけだ。なんという贅沢な時間だろう。宮殿でも酒場でもない原っぱの東屋が、世界で一番しあわせな場所に思えてきた。ここには酒がある。ここには美味がある。そして山賊たちが灯すひかりがある。



宴は、まばゆい陽光の下ではなく、やはり闇の奥底で行われるのが似合うようだ。




サワさん旦那チャン。またやりましょう。
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# by yabukogi | 2013-06-02 12:59
2013年 05月 25日

たたかえ悪臭番長


帰宅して自室のふすまを開ける。

むぅっという生温かい空気に包み込まれる以前に、僕の鼻孔は、あの強烈な臭いの、ダイレクトな攻撃を受ける。それこそ、すべての感覚器はもとより全身の細胞に、もの凄い臭いが突き刺さる。ただよう、香る、流れるではなく、もの凄い悪臭が突き刺さってくるのだ。



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先日、庭の行者にんにくを漬け込んだことをご報告したが、どんな巡り合わせなのか、また追加分を漬け込むことになった。


 □■□

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かなりの量である。栽培ものだが、信州産の新鮮なものが届いたのだ。

醤油の在庫が足りないので、一升瓶で買い求める。蜂蜜や黒砂糖も買い足す。梅酒を漬け込むガラス瓶まで動員し、黒砂糖仕立て、蜂蜜入りなどと少しずつ味わいを変えて、ぜんぶ漬け込む。




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いちど湯がいて、と紹介されることもあるが、僕のは、生だ。おとこなら、生でゆけ。

行者にんにくたちよ。
凶暴なまでに野趣溢れる、あのもの凄い臭いを凝縮させて、瓶に眠れ。



 □■□

台所の床下に隠したが、家族たちが臭い臭いと騒ぎ立てる。やくなく自室に移し、大きなポリ袋で何重にも密閉したのだが、それでも激しく臭う。いや、すさまじく臭う。



この臭いの中で、数夜を眠った。
夢の中にまでこの臭いは容赦なく無慈悲に侵入し、幾度も幾度も、僕はうなされた。焼き肉やイタリアンを満喫した翌朝の、「しまった臭せぇ!」という感覚に数日間、悩まされた。口の中や息がにんにく臭い錯覚を覚えてしまうのだ。



 □■□

返り討ちにしてやる。

僕はこの決意を胸に、瓶のひとつを開ける。ひとすくいを小皿に盛る。
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うわ!
なにこれ美味い!




いまの僕は、臭い。はげしく臭い。猛烈に臭い。
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# by yabukogi | 2013-05-25 11:38 | 喰い物のこと
2013年 05月 19日

春常念 2013/05/19

おもに前世紀の出来事だが、銀河帝国や宇宙怪獣たちが、こぞって地球侵略を企てるという事件が続いていた。


かれらは、いや奴らはこの惑星の何を手に入れたくて、あのような蛮行を続け、また繰り返したのだろう。ながいあいだ僕の中で大きなクエスチョンマークが点滅していたのだが、この日、すべての謎が解けた。




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どこまでも美しい、常念。


この風景を所有するためなら、地球防衛軍にフルボッコにされてでも、奪いたくなる。


 ■□■

2013年5月19日。
日付けが変わると同時に僕はパッキングを点検し、念のためにヘッデンの電池を交換。お茶漬けを戴き歯磨きを済ませ、00時45分過ぎ、カブのキックペダルを踏んでエンジンを始動させ、松本の自宅から安曇野へと駈けていった。




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真っ暗な烏川渓谷を震えながら走り、三股のゲートに到着。支度を済ませ補導所のある奥へ向う。




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02時40分、入山者カードに記入して行動開始。どこまでも真っ暗な急登をはぁはぁ言いながら歩く。汗が、吹き出る。


山の神さま。
あの黒くて爪の鋭い坊やが
僕の近くに来ませんように
お願いできませんか?



そうお願いしながら、黙々と2時間。




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途中の04時16分。腕のバリゴの高度計が2000mを越えた頃、ヘッデンを消す。夜明けが近い。




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04時46分。2170mで尾根に乗る。ここは分岐になっていて、写真右方向には積雪期バリ・ルートの東南尾根が伸びている。




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05時16分。高度2253m付近で朝めし。いつもの大福で。




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広やかだった尾根が2300mぐらいから次第に痩せてくる。




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ようやく、これから這い登る前常念が近づいてきた。まだ時刻が早いので雪も締まっている。距離を稼ごう。




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2400m付近で樹林帯を抜ける。左手はハイマツが露出、正面に前常念岳。夏道を嫌って雪の斜面を進む。




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振り返ると、鍋冠山・八丁タルミのうえに富士と南アルプスの巨峰たち。




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06時17分。雪の斜度が増して僕の技量を越える。やむなく左側のハイマツ帯の裏の夏道へ。これは大滝山から蝶ヶ岳、蝶槍。




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花崗岩の岩塊が重なる尾根の道。冬の間、岩が雪の重みで動かされていてとても不安定。浮き石を見極めながら這い登っていく。




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穂高を眺めながら。




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あのハリネズミみたいなコブを越えたら、前常念岳2661.8m。




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07時ちょうど到着。4時間20分かかっている。




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あと200mほど、登らなくてはならない。右奥の高まりが常念岳本峰ピーク。




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常念岳本峰。やはり美しい。足元の左側は常念沢の源頭ですっぱり切れてる。




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08時20分。神の大前に柏手を打つ。左奥に奥穂高岳、白出のコル、涸沢岳。




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槍と裏銀座方向。宇宙怪獣たちは、これをも欲した。




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みなさん、お元気ですか?




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来し方を振り返る。いまからここをひたすら、黙々と下るのだ。




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雷鳥たちが繁殖の季節を迎えているようだ。ぐぇぇぇぇぇえ、ぐぇぇぇぇぇえ。稜線上にいつも声を響かせていた。





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12時20分、三股に下山。本沢の流れは、雪代を集めて轟いていた。






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帰路、安曇野から。

山の神さま、ありがとうございました。
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# by yabukogi | 2013-05-19 18:42 | 北アルプス・常念山脈
2013年 05月 13日

森の泉の行者大蒜

この週末は外遊びを予定していたが、事情があって延期。埋め合わせに、近所の散歩に出かける。

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家から10分ぐらいの丘に立つ。歴史ある観音堂が立っており、まつもとの風景を見晴るかす。正面右の白い稜線は木曽駒ヶ岳。写真では判別できないが、左奥には南アの仙丈ヶ岳や北岳、甲斐駒も顔を出している。ここで珈琲を愉しんだのち、さらに足を進めて丘の裏にある森の奥深く....


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窪地に泉が湧く。鳥のさえずり、風が梢を揺らす音、ひそやかな水の流れの音。



3年前、ここで行者にんにくの株を、すこし掘り上げておいた。泉の周辺にはいくつかの群落があっったのだが、採り尽くされてしまったようでもう残っていない。



そうだ、僕が掘り上げたやつは、庭の片隅に定植したのだった。これをすっかり放置していた。



柿の樹の下、茂みの陰に....

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青々と葉を延ばしてる。移植しておいて良かった、とふと思う。



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元気な株から一番外側の葉っぱだけを失敬する。



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洗って水気を切って....



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たまり醤油に漬け込む。

時々取り出しては薬味に使い、残ったたまり醤油は調味料として活用しよう。
こうして穏やかな日曜日の時間が過ぎて行った。
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# by yabukogi | 2013-05-13 07:12 | ぶらぶらと歩くこと
2013年 05月 11日

正しい朝ご飯


みなさんこんにちは。

正しい朝ご飯、召し上がってますか?



学生の頃、いつもお腹を空かせていたんですが、酒を呑み過ぎた翌朝、特に空腹が激しいということに気付きました。空腹感というより、飢餓感。考えてみたら、酒を買うだけで喰い物を調達する余裕がなく、空っぽの胃袋に酒を流し込み続ける、という馬鹿げたことをしていたわけで....。

で、翌朝に魂というか胃袋が欲するものは、カツカレーか天丼、天ぷら蕎麦。なぜか揚げ物だったのですよ。


不惑を越えて以前のような大食をしなくなり、朝ご飯も納豆や豆腐、梅干ぐらいでいいや!
と生き方そのものをシフトしていたのですが、やっぱり酒を飲んだ翌朝は....



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飲んだ翌朝は、こうでなくちゃあ、いけません。かき揚げ天丼メガ盛り。

新玉葱と人参をかき揚げにしたもので、緑のはピーマンですよ。




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ちゃんとお椀も添えて。昨夜の残り物なんですけどね。
小皿のおかずは、三つありますが、手前は蕗の煮物です。




蕗のことですが....
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美ヶ原の山裾の一角に、こんな小径がありまして、ここを登って行くのです。すると....




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こんなに気持ちの良い窪地が開けておりまして、ここに蕗が生えているのです。しかもこの地方の今ごろでは絶対お目にかかれない、ぶっとい蕗なんですわ。




ほら。
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比較対象がないので判りづらいのですが。




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下茹でして皮剥いて、お好みの味わいに炊き上げて。




小皿に話を戻しますが、煮物の左上の味噌。この味噌は先日書きました「ねんぼろの唐辛子味噌」ですよ。美味いのなんの。



最後の、右のやつですが、これは蕗味噌。
早春の味わいを今ごろ?

ええ。連休に出かけた北ア稜線手前の薮尾根で、今ごろ顔を出してたやつをいくつか拾ってきました。蕗の煮物とはちょっと違った、もっと若々しい感じの蕗の香り、たまりませんなあ。






みなさまも、朝ご飯は正しくなさいませ。
特に40代以降、パワー不足を感じておられるような方々は、一日の始まりにこうやって脂質をたっぷりと摂取なさいませ。ましてや酒を飲んだ翌朝は、こうやってがっつりとカロリー補給なさいませ。さすれば、ふたたびあの頃のようなみなぎるエナジーを、実感できるやも、しれません。
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# by yabukogi | 2013-05-11 12:03 | 喰い物のこと