その男、薮の彼方に消ゆ

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2012年 09月 30日

涸川の鮠

安曇野。梓川は、干上がっていた。

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いく筋にも分かれた流れの、その本流の川底にはわずかな湧き出しが見られる。しかし、いつもは深い淵になっている橋脚の周りまで、白々とした川底を見せている。この9月、雨があまりにも少なかったのだ。



水源に当たる、槍穂稜線のある山小屋。そこでは屋根を叩く天水を雨樋からタンクに受けて、飲料水に使用している。ここの小屋番が休暇で下山して来て話してくれた。

 天水が底をついている。
 テント泊のお客に売る天水が足りなくて、
 ヘリコで荷揚げしたペットボトルを買ってもらってる。云々。





北アルプスに降る雨が、あまりにも少ないのだ。

気象庁・アメダスのデータを拾ってみる。


【2012年 上高地での降水量】
7月=375.0mm
8月=225.5mm
9月=64.5mm(ただし28日まで)


なんと。上高地、8月には一日で80mmの降雨の日もあったというのに、この9月は、たったの64.5mm。これでは梓川も干上がってしまう訳だ。おまけに稲刈りを前に8月には水田の水を抜いてしまう。だから松本盆地全体で地下水の水位も下がる。川底の湧き出しも、減る。


ある夕暮れ。
乾き切った梓川の広い河原の、ところどころに僅か、水溜まりや細い流れが残っている。その辺りを、バケツやタモ網を携えた人影が、何人も歩き回っていた。堤防に停められている軽トラックの荷台には、バケツがいくつも載せられていた。そしてある朝には、大きな猛禽類(トンビよりでかかった)が、大きな魚をぶら下げて飛び去って行くのを、僕は目撃した。


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翌朝、わずかになった流れを覗いてみると、何尾かの大きな鱒と、尺ほどもある大きな鮠(はや)がうようよいる。はじめは野鯉かと思えたほど大きく育った、梓川本流の鮠だ。何割かは雄だろう、尾や腹を鮮やかな紅色に染め、繁殖の季節を迎えていたのだ。


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うはっ。で、でかい鱒。でかい鮠。
みんなこれを取っ捕まえに、バケツや網を用意して来ていたのだ。



二三日後、ふたたび僕は梓川の畔に立っていた。網もバケツも持っていなかったが、金魚の餌を忍ばせていた。奴らは過密状態で、川虫なんかは喰い尽くしてしまったに違いない。きっと腹を空かせているだろう.....。


少し前に水が湧き出して、小さな水溜まりになっていた場所のひとつ。
干上がって、ほとんど乾きかけ、鳥たちが狩り尽くしたのだろう、魚の痕跡すらなかった。
嘘だ。そんなはずは。

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川底の石のひとつを持ち上げてみた。
石の下はわずかに湿り気が残っていて、数匹の鮠が屍を横たえていた。


この残された水溜まりでも水位が下がり、ついには魚体を隠すことができなくなる。鳥たちが大勢、嘴(くちばし)を突きつけてくる。この鮠たちは石の下に潜り、そのわずかな水も地下へと消え去り、鮠たちは死んだ。




 世 界 の 底 が 抜 け る 。

そういう体験を僕たちは昨年に経験している。それは突然襲って来て、いろいろなものを、文字通り僕たちの世界の一部分を、あるいは大部分を壊していった。梓川の鱒や鮠たちは、彼らの世界の底が抜ける兆しに何かに気づいていただろうか。ずいぶん水温が高いねえ。虫たちが減ったねえ。そして或る日。



僕たちの世界に起きているいろいろな変化が、僕たちの世界の底を抜いてしまうような性質のものなのか、僕には解らない。気候変動とか、そうした大きな枠組みでの事象もあるのだろうけど、たとえば日本人の身長が伸びているとか高齢化が進んでいるとか、あるいはシャツの裾をズボンに入れることをしなくなったとか。


鮠たちは、川の流れの中に居たから気づかなかったのか?
岸辺から見れば、数週間かけて川が干上がって行く様子が見て取れた。では僕たちの世界も、もっと俯瞰するような視点で眺めなければ解らないような、ある種、危機的なことが起きるんだろうか。6,550万年前に起きたとされる恐竜たちの絶滅のように、僕たちにはまだ察知できない、僕たちの「K-T境界」が、やがて訪れるのだろうか。

そんなことをぼんやり考えながら、金魚の餌を携えたまま僕は水溜まりを探し続けた。




たった今。雨が降りはじめた。
台風17号は、もの凄い量の水を、西太平洋から北アルプスへと運んでくるだろう。あの乾き切った梓川の本流にも、たっぷりの水が流れるに違いない。僕はキーボードを叩くのそろそろやめて、雨戸を閉めておくべきだろうか?
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by yabukogi | 2012-09-30 14:57 | ぶらぶらと歩くこと
2012年 09月 02日

さらば夏の輝きよ。

裏の田んぼの片隅で、花火だ。


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この夏、9歳になった少年は、山に、人工壁に、川にも遊んだ。北アの稜線には連れて行ってもらえなかったが、手応えのようなものを何か掴めただろうか?


チャッカマンがガス切れだった。

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火種にトランギアのアルコールストーブ。ストームクッカーと同じような構造の風防を試作してみたのだが、これに火力調節蓋を載せて「とろ火」にしてある。


遠雷を聞きながら、やがて花火が終わった。




すぐ近くにある柳の大木の様子を窺ってみた。
ここには、7月の中頃からおびただしい数のカブトムシやカナブンたちが、樹液を求めて集まってくるのだ。
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カブトムシの姿はもう無かった。群れていたカナブンもクワガタも。でもコクワガタだろう、独りさびしく樹液を吸っていた野郎がLEDの灯りに驚いたようだ。

 おい、嫁さんは見つかったかい?



虫たちの季節も、終わりを告げる。さらば、夏の輝きよ。
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by yabukogi | 2012-09-02 08:06 | 書くまでもないこと