その男、薮の彼方に消ゆ

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2011年 11月 11日

戦士の休息

熾烈なたたかいの日々が続き、傷付いた俺は一日を、深い眠りに充てた。


夢すら追いかけてくることのない、静寂と沈黙の世界。この世の果てに千年の昔に掘られ、数百年のいにしえに捨て去られた深い井戸の底に、独り過ごすようなやすらぎ… 俺は静かに一日を眠り続け、癒されたのだった。



ふと、幼い娘の寝息が俺の意識の片隅に届く。覚醒とともに眼を開けば、俺は明け方の薄闇の底に居た。深い眠りを貪った後に決まって訪れる、気だるく心地よいまどろみに身を任せながら、考える。修羅を、たたかいの日にピリオドを打とう。この小さなレディのために、平和で穏やかな日々を送ろう。


幼い娘の寝息は、俺の決意に応えるでもなく、静かに、規則正しく続いている。俺は目覚め、再び身支度を整え、手にしたくもない武器を、たたかいのための道具を身に付け、この安らいだ場所を後にする。だが娘よ信じてくれ。俺は、父さんは、ここに再び帰って来れたなら、もう二度と遠くへは行かないよ。お前のそばに、何時でも居てやれるよ…。



俺は、まだ夜明け前の薄闇のなかで眠り続ける娘の額に、そっとくちづけをした。

愛してる。父さんを赦せ。



その瞬間だった。

ひとすじの殺気が、闇の中に放たれたのだ。















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またお前かっ!
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by yabukogi | 2011-11-11 17:03 | ねこのこと
2011年 11月 03日

動くな。手を上げろ。

眠りが浅くなって、枕の下のベレッタを無意識のうちに握りしめていることに気づく。


誰かが来ている。
狙われている。


最初の異変は、匂いだった。
夜の風に、間違いようのない煙草の煙が混じったのだ。
この十年、この隠れ家にいて一度も嗅いだことのない匂い。
そう、俺の唇から両切りのピースが消えてもう十年が過ぎるのだ。
いずれにしても匂いを立てて感づかれるとは、ドジな殺し屋だ。
どこかで小銭で雇われた雑魚だろう。



しかし、わざわざこの隠れ家を探り当ててまで俺を葬りに来たのは、誰だ?



臓器ブローカーのSの手先か。
クスリ屋の元締めMたちか。
それとも、崩れ左翼の回し者か。

いずれにせよ、仕事中に煙を立てるなんて、素人がやることだ。



さくり。微かに砂利を踏む音。
誰かが、殺し屋さんの野郎が、
この隠れ家のログハウスに通じる砂利道に踏み込んできている。
足音を忍ばせ、気配を消して、暗闇に溶け込んで。


その野郎は、銃を持っているだろうか?
当たり前だ。
女かもしれないから「タマは付いているか?」と訊かれたら五分五分だ。
しかし、鉛の弾を仕込んだ鋼鉄玩具の安全装置を既に外してあることは、100%間違いない。

しかも困ったことに、そいつはたぶん、45口径だ。
たぶん、という予想が外れるなら、そいつはヘッケラー&コッホのMP5ぐらいを抱えている。
なぜならこの俺に立ち向かってくるぐらいだから。
とにかく、ドジな素人にしては充分に危険な奴だろう。



俺は待ち伏せ、返り討ちにすることにした。
音も気配もなくベッドを抜け出し、廊下を抜けてリビングの窓からバルコニーに降りる。
掌にはベレッタM92。
こいつはマガジンに腹一杯、15発の9mmパラベラム弾を抱えている。

俺は砂利道に面したバルコニーの、完全な闇の中に身を沈めた。
もうすぐやって来る殺し屋さんの野郎からは絶対に見えない位置に。



最初の気配からは、あの「さくり」という微かな音がない。
しかし、確実に闇が揺れ動いているのが判る。
そいつは引き金に指を当て、
ほんのワンアクションで俺に鉛の弾をプレゼントするつもりなのだ。
45口径の腹に響く発射音か? 
それとも、サブマシンガンのタタタタというリズムで鉛玉が飛んでくるか?
俺はおぼろな影の動きから、やつが抱えている火器を特定しようと闇に眼を凝らしていた。


ひとりの残忍な男の顔が、脳裏に浮かんだ。
もしかして、奴か?
カネの洗濯屋Yか?
日本煙草が大好きで何よりピースを愛用、
あちこちの組織に頼まれてカネを洗う商売の残忍なくそ野郎だ。

奴とは、二年前の九龍のスラム街でちょっとした貸し借りをしたまま、その清算が済んでいない。
いや、正確には一度チャラにしようとモロッコくんだりまで出掛ける羽目になった。
あげく真夜中の路地裏で派手な音を立て、お互いに鉛弾を交換しあっている。
だから、そのときはドローだ。
そう、流した血は、どちらも同じぐらい、どす黒く濁っていたはずだから。
とにかく、奴が今回、どんな手品で入管をくぐり抜けてきたかは知らないが、
日本で洗濯ビジネスの用事があるのと同じぐらい、
俺に再び鉛弾のプレゼントをするつもりなのは間違いない。



しかし奴は、ドジった。
俺へのプレゼントなら、
眠っている俺のそばに来て至近距離から心臓を狙うまで、
煙草に火をつけてはいけなかったのだ。




いよいよ、決着を付ける瞬間が訪れた。
奴は、俺のすぐ側まで来ている。
おぼろなシルエットが近づきながら、濃密に揺れている。
俺はベレッタM92の銃把をいとおしむように握りしめながら、闇の底から、静かに告げた。





動くな。手を上げろ。
お前はもうおわりだ。













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だからお前じゃないってばぁ。
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by yabukogi | 2011-11-03 13:05 | ねこのこと