カテゴリ:北アルプス・主稜線( 6 )


2010年 10月 25日

静寂と展望の稜線・烏帽子岳 2010/10/24

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北アルプスは、冬を迎える。林道ゲートが閉まると物理的にも稜線は遠くなる。せめて、今年の山遊びの御礼をひと言申し上げねば気が済まぬ。日帰りでどこか... そう思案していたらご近所のカワムさんがご一緒くださることに。ふたりでプランを出し合い、前の日まで行き先に迷いに迷ったが、日帰りでブナ立て尾根から烏帽子岳をおとなうこととする。2010年10月24日、高曇りの空は午後まで泣き出さず、僕らの下山に合わせるかのように細かい雨つぶを落とした。


七倉の駐車場にカワムさんのクルマを置いて、0430歩き始める。高瀬ダムで東の空が明るみはじめ、不動沢の吊り橋あたりでヘッデンが不要に。濁沢方面には足場を組んだ歩道が仮設されている。


人影は、ない。気配もない。遠くに姿を認めることもない。

>> 続きは稜線で...
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by yabukogi | 2010-10-25 20:46 | 北アルプス・主稜線
2010年 09月 15日

鹿島槍ヶ岳・二日目後半

腹が減ると、この朝のことを思い出す。


もう夏の想い出となった鹿島槍二日目、2010年8月24日後半の行動。この未明に冷池のテン場を出発、鹿島槍ヶ岳山頂を訪れ、ぐぅぐぅと鳴る腹をなだめながらテン場に戻ったのだ。急いで湯を沸かし豚骨ラーメンに高菜漬けやキクラゲを投入したことは、さきに書いた。とにかく、これを喰ってテント畳んで撤収。



爺ヶ岳への稜線を歩き種池から扇沢に降りれば、僕の夏山は終わる。たった二日間だけど、大縦走でもバリエーションでも登攀でもない小さなハイクだけど、大切な旅が終わる。降りてしまえば仲間に来年までのアディオスを告げ、それぞれの街に散る。だから爺ヶ岳へ、扇沢へ、残された半日をたいせつに歩こう。



今日は、すべての一歩を忘れないぐらい、心にしみじみと刻みながら歩くはずだった。ところが、冷池から爺ヶ岳へと向う緩やかな登りがきつい。長い。水平歩道をイメージしてて、実際はそのようなものだが、きつい。昨日の疲れに加えて、朝の鹿島槍山頂往復の疲れを載せて、ふらふらに歩いているのだ。とても一歩一歩を心に刻むどころじゃない。途中、鬼軍曹のNut's氏がペースを合わせてくれるが、こらえきれず先行してもらう。むむむ。年齢同じくして、軍曹は原子力で動いているとまで囁かれている。これは基礎的な体力を養うことは勿論のこと、すみやかに疲労回復をはかるという技術的な問題もあるな。



冷池の乗越を過ぎて赤岩尾根の積雪期下降点をチェックする。ここか。確信は無いがたぶんここだ。春の陽光の下、僕がここを歩くことを想像する。本当に来れるか。きっと大丈夫、そういうことにしておこう。山を下りるときは、いつかまた来ることを考えていないと、切ないのだ。再会の約束の無い別れには、耐えられない。



爺ヶ岳北峰の直下ぐらいだろうか、遠ざかる鹿島槍を眺めようと振り返る。鹿島槍の両ピークは、いまや見えない。冷池乗越の鞍部に向って信州側からガスが上がってきているのだ。夏のお昼になると、必ずこうなる。前方の種池の鞍部でも同じく、扇沢から垂直に数百m上昇するガス塊は大迫力。おや? 種池小屋の発電機の音が聞こえるよ。眼下には、棒小屋沢源頭から十字峡へのひと筋の水のみち。そういえば小林喜作氏(1875--1923)、表銀座の名付け親で喜作新道の開拓者は、この棒小屋沢で雪崩に遭い亡くなっているのだ。



爺ヶ岳南峰で憩う。梅干と記念撮影。みんないい顔してる。




下りは、早い。すたこら行く。種池の小屋で飲み物を仕入れ、喉に流し込む。Jun氏が手ぬぐいを買ってマジックペンを借りて来た。記念の寄せ書き。このふつか間のことを ぼくは生涯わすれない たしかそう書いた。下山後の段取りを話し合う。Nut's軍曹は夕方のバスと翌日の高尾山という予定の縛りがあるのに、爽やかな笑顔で「松本で温泉と宴会!」と命令。このひと言で、みんなの頭の中は温泉と宴会のことに切り替わる。柏原新道の石畳を踏んで、扇沢へとゆっくりと下る。チャイ団長をつかまえて、秋山の相談をする。ねぇ、また八ツにしましょうよ、去年の赤岳も静かで良かったし... 沢の音がだんだん大きくなる。堰堤の傍らに降り立って、正面にランクルの四駆車が見えた瞬間、下界に戻ったのだと悟った。



松本市内で僕の近所の居酒屋に席を頼み、浅間温泉でひとっ風呂を楽しむ。クルマを置きに行ったカワム氏も合流。湯上がりのぷしゅっという音の替わりに、冷えたジョッキがぶつかる「ゴツッ!」という響きが嬉しい。みんなありがとう。飲む飲む呑む呑む、そして喰らう。wadac氏が日本酒に切り替える。僕も切り替える。河岸を替えて僕の家の茶の間でまた飲む...。早朝、ここはどこだ? と雑魚寝から目覚め、珈琲をいれて目を覚まし、抱擁して別れる。僕はひとり台所へ戻りクッカーを洗う。ブーツも洗って干す。テントとシュラフは2階の手すりに干す。気が付けばこのとき、旅は完全に終わっていた。







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どうもありがとう、こころから。

外遊び彷徨記】チャイさん
てくてく備忘録】wadacさん
nutsclubへようこそ!】nuts軍曹殿
アレもほしい☆コレもほしい☆もっともっとほしい】Jollyさん
雲の上まで行って来ます。】Jun(永遠の槍隊放題)さん
コカゲイズム】カワムさん
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by yabukogi | 2010-09-15 15:19 | 北アルプス・主稜線
2010年 09月 06日

鹿島槍ヶ岳・二日目前半

2010年8月24日朝。槍隊放題2010、二日目前半。


テントのベンチレーションから、白くて丸い光が差し込んでいる。街灯? 一瞬、山に来ていることを忘れ、庭か公園にテントを張って寝ているような錯覚を覚える。あぁ...劔の上にさしかかった月だ。そういえば、ここは鹿島槍の南のあたりの稜線だ。明日は満月なんだ。そう思い至ると同時に、シュラフの上で大の字になっていることにも気付く。喉が渇いた。開けっ放しの前室に転がるボトルを手にする。フライは下げてるから、外の様子まではわからない。たぶん幾張りものテントが、晃晃と月の光を浴びているに違いない。



いつ眠ったのか、覚えていない。でも、02時起床03時出発と打ち合わせたことは間違いない。時々時計を見る。物音、気配はしない。風もない。誰かが起きた。ジッパーの開け閉めの音が聞こえる。他のテントからも聞こえる。02時を過ぎたところだ。狸寝入りしていると、03時近くになって鬼軍曹ナッツ氏と思われるライトが迫って来た。やばい! 鉄拳か! 無言の起床命令に瞬間的に起きて支度を始める。水500、行動食、ジャケット、ポール1本。僕ら七人は、月の光が照らすテン場をあとに、物音も立てずに歩きはじめる。



まだ夜明け前の稜線は、満月に明るい。東には大町市街地の夜景、そして昇る夏のオリオン。西には月光の立山と、劔。足元には夜露をまとったチングルマ。蛍光塗料のようにヘッデンの灯りを反射する植物もある。いろいろと冗談を言い合いながら布引山に向う。登りが苦しい。息があがる。昨日の疲れが抜けていない。パワーとスタミナみなぎるジョリィ/ナッツ/カワム3氏が先行、僕ら後続はゆっくりと足を前に出して行く。



稜線の灯りは、南の爺ヶ岳の西側に、種池山荘のものだけ。やがて黒部川を挟んで大観峰にひとつ。やがて劔沢にひとつ、灯る。みんな夜明け前に行動を始めているのだ。立山の向こう、日本海の海原だろう、遠くで稲妻がはしる。真南の木曽山脈方面でも光る。音は無い。稜線の小屋の灯り、遠い稲妻、そして先行する仲間たちのヘッデン。いくつかの灯りを追っていると、東の水平線が深い群青に明けて行く。群青の下は紫煙を流したような雲の海、海。雲海と群青の境目に、朱が混じる。黄色い輝きも生まれる。そのひかり、グラデーションのあまりにも美しい色彩の構成に混乱してしまって、支離滅裂なことを口走ってしまう。振り返れば、まだ暗い空の下に、槍と穂高・前穂のシルエット。興奮が高まる。そんな混乱と興奮の中で、いつの間にか僕は鹿島槍の南峰(2,889.1)に立っていた。



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ハゲザイル、万歳! 
頭髪よ3ミリの栄光に!  photo by Jun氏 【訂正:カワム氏】

 >> 北峰にも寄ってく?
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by yabukogi | 2010-09-06 14:30 | 北アルプス・主稜線
2010年 09月 05日

鹿島槍ヶ岳・一日目

2010年8月23日。槍隊放題2010、一日目。



2時間以上も、膝を胸まで持ち上げるような登りが続いている。樹林帯でおおむね木陰を歩けると言うものの、気温は30度を超えているだろう。稜線東側に位置する赤岩尾根、朝の登りでは昇ってくるお日さまが、うまい具合に背中を炙ってくれる。僕は脇にシュリンゲでぶら下げた500ccのボトルに何度水を補充したことか。西股出合で汲んだ2Lはすぐに尽きた。全身の細胞が貯えている水という水が、ぜんぶ出て行く。あとは下界から持って来た1.5Lで稜線まで頑張るのだ。


大冷沢北股本谷脇の流れ込みから汲んだ水は、雪の味がした。稜線方向の右、鹿島槍東尾根の方を見上げれば、アラ沢の頭へ突き上げる雪渓が見えている。そう、赤岩尾根の両側にはまだ雪渓がたっぷり残っている。あぁ、山の水だ。岩清水は味も香りもしないようなイメージがあるかも知れないが、雪渓の末端で汲むような水は、たしかに山の味をまとっている。さっきまで僕の身体の細胞を満たしていた水は、松本市の水道水。この、水道管と蛇口を経て来たまちの水は、汗となってみんな出て行ってしまったわけだ。そこへ、ごくごくと北股の、稜線直下の雪渓を源とする水を流し込んでやる。身体の水が、山の水に入れ替えられる。こうして赤岩尾根を登り上げながら、僕の身体は少しずつ、山の一部となってゆく。

 >> 続きには、汗も涙も!
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by yabukogi | 2010-09-05 09:10 | 北アルプス・主稜線
2010年 08月 27日

美しい山を歩いた

8月27日金曜日。朝。
登校する長男坊をバス通りの交差点まで送ってやろうと、家を出る。
とうちゃん、足に湿布がついてるよ。
坊主に指摘され、苦笑しながらアキレス腱上の鎮痛消炎テープを剥がす。
同時に脚の痛みがすっかり消えていることにも気付いた。
そう、昨日までは確かに、痛みという感覚があったのだ。


山から帰って足に出た筋肉痛までが、去った...。
そうか、山を歩いた折りの生々しい感覚。帰ってからの痛み。
そういったものはゆっくりと僕の中に沈殿しはじめていて、
やがてひとつの記憶と体験として、定着されてゆくのだろう。
この定着のプロセスを、僕は心のどこかで拒んでいる。
安易に定着させたくない。いや、生々しい感覚を失いたくない。
まだ僕には、今回の山旅を過去のこととして
受け入れる用意ができていないのだ。

  ◇◆◇

ブーツは帰った翌朝に洗って干した。
テントも干してたたんだ。
クッカーも洗って、何もかも山に出かける前と同じように手入れして整えた。
部屋の中の風景は、先週も今週も変わらない。
ほんとうに僕は、あの美しい山を歩いたのだろうか。

決定的に違う部分がある。
それは、ハイバックチェアに座っている僕が、
いきいきと登山計画書を作っているか、
ぼうっとしたまま庭を眺めてるかの違いだ。

僕は、魂をどこかに置いてきてしまったのだろうか。


僕はあの美しい山を、間違いなく、歩いたのだ。

  ◇◆◇

遅かれ早かれ、定着のプロセスはやってくるだろう。
【槍隊放題】は、記憶と経験という透明なガラス瓶に、
やがて封印されてしまうのだ。
劔を味わうなんていう、こんないたずらな光景とともに。


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がぶんちょす。







がぶんちょす(c)放置民    放置民によるピークイートのこと
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by yabukogi | 2010-08-27 16:54 | 北アルプス・主稜線
2008年 07月 21日

針ノ木岳・蓮華岳 08/07/21

この年。海の日に、出かけるならばと山に向かった。

2008年7月21日。
ものすごく暑い日々。
ひんやりと雪渓に冷やされて快適なワンデイの旅。

真夜中に仮眠を打ち切る。重たい身体を起こして、家族に悟られないように身支度を始める。物音を立てないよう、気配を起こさぬよう。パッキングは済ませてある。ザックもブーツもピッケルも、夕方のうちに屋外の倉庫に移してあるのだ。昨夜の夕食が鰻だったことを思い出す。鰻も鰻、松本では「本間」というだけで鰻好きがよだれを垂らす老舗の鰻。僕の分は無いものと期待もせずにいたら、なんとふた切れ、取り分けてあった。これを
でかいタッパにぎゅうぎゅう詰め込んだ冷や飯の上に載せる。残っていたタレもかけ回す。無理矢理フタしたタッパを抱え、カブ(リトルカブ)のキックペダルを踏む。松本の家から大町まで1時間半。扇沢までさらに30分。04時に歩き始められるよう、まだ02時すぎだ。


真っ暗な扇沢駅にカブを乗り入れる。地面に座り込んで、心地よくすがすがしい真夏の夜明けの時間を楽しむ。膝の上には、あのタッパ。たぶん2,000kcklを超えているだろう鰻飯を、腹に詰め込む。美味くて涙が出る。


トロリーバスのトンネル方向に遊歩道が続いている。真っ暗で見えないけれど、照らしながら探しながら、足を進める。ヘリポート付近でだんだん東の空が明るむ。木立の中に続くトレイルを、なおも進む。大沢小屋が近づく。夜明け。しかし樹林帯の底は、まだ夜を引きずっている。


やがて雪渓の降り口に着く。ためしにピッケルで雪を突いて見ると下の方が凍ってる。しょうがないのでアイゼンを履き、ピッケルは背中に刺したまま雪の上を進む。針ノ木の雪渓は初めてだけど、ここもベンガラのラインを拾って登って行く。空が青い。真っ青な空に向って純白のラインが詰め上げている。正面に詰め上げている場所は針ノ木の峠ではなく、マヤクボのコルが見えている。のどのところで緩く左へ曲がるのだ。


ノドの手前で、緩傾斜になった箇所があった。振り返ると、雪渓の底からガスが湧き起こっている。
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しばらく呆然と、佇む。何もことばが出ない。何度も何度もシャッターを切る。気が付けば、20分近く過ごしている。明るくなって出発したのだろうか。大沢小屋からだろうか。後続のハイカーたちがぞろぞろと上がってくる。けっこうな賑わいである。


この年、峠の小屋の下まで雪が残っていた。夏道を踏まずに、小屋に着いた。


小屋からはまず針ノ木山頂に向う。気持ちの良い岩尾根、ハイマツ斜面、雪田、そしてマヤクボカールのへりを回るように、山頂に立つ。何も言語化できない、展望。劔はガスをまとって姿をさらすことはなかったが、北アルプスの真ん中に立っている感覚を、愉しむ。パノラマを堪能し行動食を頬張り、すぐに峠へと戻る。



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蓮華岳にも足を運ぼう。峠からの蓮華への登りは、気持ちのいいトレール。ざくざくと砂礫の道が続く。お宮に柏手を打ち、やがて静かな蓮華岳山頂に至る。大下り方面に、少しだけ偵察。


うおぉぉぉぉぉぉぉ.......

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コマクサの大群落。これに匹敵するのは、北燕ぐらいだろうか。フレーミングがいい加減で伝わらないと思うけれど、コマクサは写真左下の斜面方向に、どこまでも広がっているのだ。



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大下り方面へ登り降りしながら、花を楽しむ。名は知らねども、色とりどりに風に揺れていた。



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またいつか、必ず行こう。
こんなに美しい稜線が続く、この星の宝石のような山々を、僕はほかに知らない。


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by yabukogi | 2008-07-21 23:00 | 北アルプス・主稜線