2012年 04月 26日
畦地梅太郎という美術家がおられた。 版画と紀行文に銀河のきら星のような美しい作品を多数、僕には言い表すことのできないあまたの「美」を創り出し、僕のようなつまらない人間のたましいまでをも、幾度も震わせてくれた。 その畦地さんの作品に、『山男』シリーズがある。ひげ面で目にひかりの凝った山男は、ピッケルを小脇に抱え肩にはロープ(当時のことだから麻のザイルだ)を掛けている。時には地べたに寝そべって、酒を舐めている。 この山男、しばしば、雷鳥を抱いている。 僕が見かける雷鳥は、逃げこそしないけれど、触らせても抱かせてはくれない。しかし畦地さんの描く(版画だが描く、と書いてみる)山男は、野生のもののけのような存在なのだ。きっと、深い絆で雷鳥たちとも結ばれているようで、雷鳥たちは何も恐れること無く、山男の膝で、腕の中でやすらぎ、憩うている。 その男、これがうらやましくてならない。真似てみる。 ![]() これは! 酷すぎる。あまりといえばあまり。 もっと美しい生き物を抱くことはできなかったのか! う〜ん... ひげ面なのは、畦地さんもお許しになろう。 ![]() はたして、いかがなものか.....。 しょせんその男、だめなのである。 そろそろ、山へ行け。 2012年 03月 31日
ある冬の日。 僕は酒の肴を仕込んでいた。 酒とおろし山葵につけ込んだ地鶏のささみ。 刺身用のするめいかは開いて、酒と醤油を振る。 こいつらを干物ネットに広げ、 信州の冬の風で生干しにするのだ。 ![]() うちののらえもんが、 見張りをしてくれると、申し出てくれた。 ![]() おお、ちゃんと見張ってくれてる。 ![]() 結構役に立つではないか。 のらえもんは長い時間、 そこに留まってくれた。 はじめは跳躍のパフォーマンスを見せてくれたり (何度もネットを揺らしたようだ) 高らかに哭き叫んでいたが (ぎゃおんぎゃおん、五月蝿かった) 陽が傾いて凍えたのだろう、 宅内に戻って、僕の足を何度も噛んだ。 ![]() おかげで、美味しくいただけた。 2011年 11月 11日
熾烈なたたかいの日々が続き、傷付いた俺は一日を、深い眠りに充てた。 夢すら追いかけてくることのない、静寂と沈黙の世界。この世の果てに千年の昔に掘られ、数百年のいにしえに捨て去られた深い井戸の底に、独り過ごすようなやすらぎ… 俺は静かに一日を眠り続け、癒されたのだった。 ふと、幼い娘の寝息が俺の意識の片隅に届く。覚醒とともに眼を開けば、俺は明け方の薄闇の底に居た。深い眠りを貪った後に決まって訪れる、気だるく心地よいまどろみに身を任せながら、考える。修羅を、たたかいの日にピリオドを打とう。この小さなレディのために、平和で穏やかな日々を送ろう。 幼い娘の寝息は、俺の決意に応えるでもなく、静かに、規則正しく続いている。俺は目覚め、再び身支度を整え、手にしたくもない武器を、たたかいのための道具を身に付け、この安らいだ場所を後にする。だが娘よ信じてくれ。俺は、父さんは、ここに再び帰って来れたなら、もう二度と遠くへは行かないよ。お前のそばに、何時でも居てやれるよ…。 俺は、まだ夜明け前の薄闇のなかで眠り続ける娘の額に、そっとくちづけをした。 愛してる。父さんを赦せ。 その瞬間だった。 ひとすじの殺気が、闇の中に放たれたのだ。 ![]() またお前かっ! 2011年 11月 03日
眠りが浅くなって、枕の下のベレッタを無意識のうちに握りしめていることに気づく。 誰かが来ている。 狙われている。 最初の異変は、匂いだった。夜の風に、間違いようのない煙草の煙が混じったのだ。この十年、この隠れ家にいて一度も嗅いだことのない匂い。そう、俺の唇から両切りのピースが消えてもう十年が過ぎるのだ。いずれにしても匂いを立てて感づかれるとは、ドジな殺し屋だ。どこかで雇われた雑魚だろう。 しかし、わざわざこの隠れ家を探り当ててまで俺を葬りに来たのは、誰だ? 臓器ブローカーのSの手先か。 クスリ屋の元締めMたちか。 それとも、崩れ左翼の回し者か。 いずれにせよ、仕事中に煙を立てるなんて、素人がやることだ。 さくり。微かに砂利を踏む音。誰かが、殺し屋さんの野郎が、この隠れ家のログハウスに通じる砂利道に踏み込んできている。足音を忍ばせ、気配を消して、暗闇に溶け込んで。 その野郎は、銃を持っているだろうか? 当たり前だ。女かもしれないから「タマは付いているか?」と訊かれたら五分五分だが、鉛の弾を仕込んだ鋼鉄玩具の安全装置を既に外してあることは、100%間違いない。しかも困ったことに、そいつはたぶん、45口径だ。なぜならこの俺に立ち向かってくるぐらいだから。とにかく、ドジな素人にしては充分に危険な奴だろう。 俺は待ち伏せ、返り討ちにすることにした。音も気配もなくベッドを抜け出し、廊下を抜けてリビングの窓からバルコニーに降りる。掌にはベレッタM92、こいつはマガジンに腹一杯、15発の9mmパラベラム弾を抱えている。 俺は砂利道に面したバルコニーの、完全な闇の中に身を沈めた。もうすぐやって来る殺し屋さんの野郎からは絶対に見えない位置に。 最初の気配からは、あの「さくり」という微かな音がない。しかし、確実に闇が揺れ動いているのが判る。そいつは引き金に指を当て、ほんのワンアクションで俺に鉛の弾をプレゼントするつもりなのだ。 もしかして、奴か? カネの洗濯屋Yか? 日本煙草が大好きで何よりピースを愛用、あちこちの組織に頼まれてカネを洗う商売の残忍な野郎だ。 奴とは、二年前の九龍のスラム街でちょっとした貸し借りをしたまま、その清算が済んでいない。いや、正確には一度チャラにしようとモロッコくんだりまで出掛ける羽目になった。あげく真夜中の路地裏で派手な音を立て、お互いに鉛弾を交換しあっている。だから、そのときはドローだ。流した血は、どちらも同じぐらい、どす黒く濁っていたはずだ。とにかく、奴が今回、どんな手品で入管をくぐり抜けてきたかは知らないが、日本で洗濯ビジネスの用事があるのと同じぐらい、俺に再び鉛弾のプレゼントをするつもりなのは間違いない。 しかし奴は、ドジった。俺へのプレゼントなら、眠っている俺のそばに来て至近距離から心臓を狙うまで、煙草に火をつけてはいけなかったのだ。 いよいよ、決着を付ける瞬間が訪れた。奴は、俺のすぐ側まで来ている。俺はベレッタM92の銃把をいとおしむように握りしめながら、闇に向かって静かに、告げた。 動くな。手を上げろ。 お前はもうおわりだ。 ![]() だからお前じゃないってばぁ。 2011年 10月 28日
マシンに跨がって軽いひと蹴りを見舞うと、50ccエンジンは咳き込むように濁った息を吐きこぼし、すぐあとにはリズミカルなサウンドを響かせていた。わずかなひと時、命を削るような修羅を脱して隠れ家のベッドに潜り、休息を貪るのだ。安曇野を駆け抜け、丘を越えれば俺のささやかな隠れ家。山峡のワインディングに、俺を邪魔するものは、何もないはずだ。 予想通り、夜のとばりが降りる前、俺は隠れ家に辿り着いた。玄関から廊下を正確に12歩。薄暗い書斎のドアを開ける。そしてハイバックチェアに体を預け、デスクに足を放り上げる。続けてデスクの下から埃を被ったバーボンのボトルを取り出して、こいつも埃っぽいグラスに、たっぷりと注ぐ。目の前に、鳴りもしない電話の横に積まれたままの請求書の束に一瞥をくれて、グラスを飲み干す。胃に墜ちていった熱い塊のような酒の余韻を楽しみながら、もう立ち上がってベッドへ向かおうとした。 なんの気配だ? 微かな溜め息のような、囁きにもならない音が、俺の動きを止めさせた。 ![]() またお前か! ハードボイルドな夜が、静かに幕を開けようとしていた。 2011年 10月 25日
2011年 10月 11日
遅くまで朝寝に微睡(まどろ)んでいると、夢の中にずしりと来た。 胸が突然に締め付けられ、重苦しい気配が部屋に満ち充ちる。壁が、天井が、殺気を孕んで膨れあがる。 悪霊か、はじめはそう思った。 数百年を未だ浮かばれぬ落武者か? 越後の名も無き岩壁で墜死した先輩のKか? 雪の飯豊から十数年を経ていまなお還らぬ岳友のMか? 僕の夢である、よもや乙女のふるえる魂ではあるまい… アジアの怪しげな草の実を喫んだ訳でもない。自家製の酒を飲んだりもしない。ましてやしばらく家を離れていたから、家人に一服盛られたとも思えない。やはり、祟られて見舞われる金縛りというやつに違いあるまい。 ![]() ぬこの仕業か! ひさしぶりの帰宅であった。長らく家を空けて仕事に明け暮れていたのだ。ふと思い立って家に帰り、惰眠をむさぼろうとしたところに不意討ちであった。ぬこの野郎は僕の朝寝を察知して、そっと気配を消してやって来たのだ。僕が夢の世界に旅立ち、胸郭が規則正しく上下する頃を見計らって、来たのだ。 可愛い奴め。 2011年 04月 28日
夕方。台所の用事からデスクに戻る。 おい! そこは俺の場所だ。 ![]() もう一度だけ、言う。 そこは俺の場所だ。 ![]() うぉ。寝た。 移動する意志はないということか...。 お れ の ば し ょ だ 。 ![]() ははぁ。 マウスを見つけたつもりだな。 ![]() しょうがないやつだ。 2011年 04月 25日
【前回までのあらすじ】 しっぽが折れた哀れな若い雄ねこの"どろす"は、 ある秋の夕暮れ、その男が焼いている秋刀魚の匂いに誘われ、 その男の家に上がり込む。 玉を抜かれる危機を三度も脱した"どろす"は 秋、冬の間もぬくぬくと陽だまりに遊び、 そして春--抗争の季節--を迎える。 眼前の敵は、凶悪で巨大な"メガロック" 果てしなく続くかに思えた壮絶な闘い、 そして遂に訪れた「ジャッジメント・デイ」 満身創痍となりながらも、神々は勇者"どろす"を認め、 この縄張りとシノギに祝福を贈る。 この間、若き勇者を支えたのは、その男のと「きずな」。 強敵を倒し、やっと訪れた安逸の日々。 しかし! 幸せをむさぼろうとしていた矢先、 "どろす"は新たな敵を迎え入れることになる。 新敵、それは"ミルクティ" "ミルクティ"とは、何者なのか...? そして"どろす"は、いかに闘うのか...? ■□■ ある日。どろすは、外を眺めていた。 あたたかな窓辺に、半分眠りながら。 だれだ! ![]() ミ、ミルクティ..... ![]() ![]() ![]() ![]() ■□■ だ...だめなんだ...アニキ。 ![]() 2011年 04月 18日
半年以上、収入が無い。 たった100円の稼ぎも、無い。 ![]() 半年以上、というのは 僕のところに転がり込んでき来て半年。 その前も、同じようなものだったのだろう。 前向きに生きよう、とか 明日からは頑張ろう、とか せいいっぱいいのちの輝きを、とか ほほえみを広げよう、とか そういう思いも、無いようだ。 ![]() < 前のページ次のページ >
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