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2013年 06月 10日

薮尾根の怪異

みなさん。

ひとりクルマを運転しているとき、なんとなく、後部座席に誰かが乗ってるんじゃないかって、そんな錯覚に抱きすくめられたことはありませんか?


あるいは、独り部屋の中に過ごしている時に、あれ誰か居る? って視線をめぐらしたような経験はございませんか?

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それは、いまからひと月すこし前。
北アルプス常念山脈から派生する、薮尾根を歩いた折りのことでございました。


 ■□■

5月の連休の一日。
わたくしは、以前から気になっていた、ある尾根を歩いたのでございます。そこは、一般のハイキングコースはおろか踏み跡すら無く、さらに言うならば山菜が採れるような植生や標高でもなく、誰かが入ってくるような場所ではございません。


そんな無名の、道も無い尾根で、わたくしは奇妙な出来事に遭遇したのです。

ご承知のように、わたくしはきちんとした山岳会で鍛えられたわけではありません。ですが、同好会のそれなりに厳しい訓練は受けています。たとえば雪上歩行で足の置き方が悪いと、背後からピッケルでぶっ叩かれる、というわけです。そんなこともあり、足の置き方、雪面プレスの仕方にはかなり気を使うわけです。

ピストンする場合、往路のトレースから容易に自分の足跡を選ぶことができます。それぐらい、神経を配っていると言えるでしょう。


その日も、そうだったのでございますよ。

 ■□■

石楠花などの薮がかった尾根歩きを途中で諦め、退却を決めた後でした。

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なんとなく、言葉にし難いような違和感を覚えたのでございます。先に書きました、クルマの中に... ってやつです。これが、短時間のあいだに3回ほど続きまして、わたくしは全身に鳥肌が立ちました。


やがて、気持ちを切り替えて、前後に「別なパーティーが入ってる?」そう考えてみることにしたんです。会話、熊鈴の音、そう言った気配を探してみたのです。


 ■□■

この尾根に、積雪期に入ってある無名ピークを目指したパーティーの記録を読んだことはございます。ネット上でさんざん調べて、過去に3件。たった3件でございますよ。そのひとつはわたくしの尊敬するB氏で、彼は山頂を踏んで来ています。他のふたつは積雪期のラッセル&野営訓練みたいなもので、下の方で引き返しています。

林業関係、治山関係はというと、有り得ることなのですが、実はこの日でも、ここへ至る林道がデブリに埋もれ、何カ所も通行できなくなっています。なので、林業治山関係の線も薄いかなと。


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つまりですね、合理的に考えると、この時期に誰かが入り込むような尾根ではない、と結論づけられるんです。いえ、わたくしのようなへそ曲がりが他に居て、薮が雪に埋まった春を狙って踏破を試みた、という可能性は否定できませんが。


そんなことを考えながら、この違和感の正体を特定しようとしてたんですわ。

 ■□■

ありましたよ。
足跡でした。

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こんなところに、今シーズン、誰か入ってきたのですね。驚きです。



うわ。なにこれ!


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もしかしてこども? それとも女性の小さめのサイズ?



いやいや、さっぱりわかりません。ますますわかりません。大きな山靴跡だけなら理解もできます。でもあの小さな足跡は何なのでございましょう。




春の日の、不思議な出来事でございました。
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by yabukogi | 2013-06-10 12:00 | 書くまでもないこと
2013年 05月 02日

部屋を晒します

わたしの、汚い部屋の内部を晒そうと思います。


木造モルタル2階建て、築38年の戸建住宅の1階です。南東角にあたる8畳の和室を占有しております。

家財に相当するモノはほとんど所有しておりません。蔵書もほとんど処分してしまいましたので、書棚ひとつの文庫、ハードカバーが残るだけです。衣類は、スーツと礼服が夏冬各々ある以外、全部、山服です。ジーンズが1本あるかないかです。話がそれますが、ストームゴージュのパンツって、一年中役立ちますね。3本あって、2本がアルパイン、1本が非アルパイン、モンベルの七分丈ライトニッカーみたいなのを合わせると、あとは要りません。これで1年履き回しですよ。うちの團のきまつ部長は、パタのトラバースパンツを評して「トレランから春の園遊会まで」と書いてましたが、ストームゴージュも「野良仕事から神輿の渡御まで」って感じであります。

あぁ、脱線してしまいました。

わたしの部屋です。
先日、わたしの体内の水分はモルトなんです、ってカミングアウトしたばかりなんですが、その際に、壁の棚の一部をご紹介いたしました。
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わたしの棚であります。






すこし下がると、こうなります。

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おや? ナベやマグの配置が違う?

これは、どれもこれも、ほぼ毎日使ってるからなんです。
上の段の真ん中、SPの焚が写っていますが、これはウーロン茶の煮出しに使います。濃いやつを作ってがぶがぶ飲みますと、デトックス感がすごいんですよ。2段目のマグ類は、弁当ランチにどれかしら持って行ってます。左ふたつ、SPと焚と極のマグがありますが、これはハンドルが短くて使いづらく、エバニューのチタンマグ(赤いポットの左)の方にハンドルの利点がありますね。

おっと、ククサが写ってますね。大親友から贈られたもので、寝床で寝っ転がって寝酒を舐めるときに、使うんですよ。



この棚は、コメリドットコムで買った、ホワイトパインの2X4材と1X4、1X1だけで作られています。組立はコーススレッドビス、強度が必要な箇所には、USシンプソン社の補強金具が使われています。

さらに、複数の棚が直角に連結されたり向かい合ったりしており、それぞれを2X4材の梁がつないでいます。なので完全自立式のうえ部屋の柱と梁に突っ張る格好で、巨大地震が来ても崩れることはないと思っています。ですから梁からぶら下がろうが、びくともしません。なお、テーブル板を除いた材料費は、約12,000円でした。すこしカメラを引いてみましょうか?






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ちょっと!

なんていう散らかり具合ですか。掃除とかしないんでしょうかその男...。


窓辺なのに、まさに穴蔵ですね。巣穴です。その男、引きこもり感が半端ないですね。孤立感、絶望感、行き止まり、終着駅、デッドエンド、いろんな言葉が浮かんでまいります。

でも、その男本人は【砦】のつもりなんです。【要塞】なんです。見えない敵と戦ってるのでしょうか? 
それとも、同じ屋根の下の何かに、危険を感じることがあるのでしょうか。



じつはこの棚、天井近くと床のところで画面の右方向にずーっと続いてまして、その先は吊り下げ棚と書棚になってるんです。茶色い板のデスク面も、さらにあと3メートルぐらい。そこで壁にぶつかるんですが、90度折れましてまたずーっと梁が続いてるんです。こうして部屋全体の頭上に梁が張り巡らされているので、なんでも吊り下げておけるんです(註)。靴下もグローブも書類も酒のツマミも山道具も、見上げればすぐに見つかるんです。探す手間が省けて、楽なことこの上無し。


ええ。
吊り下げ式にする以前、もの探しに一日のほとんどを費やしていたんですから。歳は取りたくないですね。


ではごきげんよう。明日は、少しだけ高い所に出かけてきます。




注釈
2週間前に原因不明の肋骨骨折が発生して以来、寝床から起き上がるときの激痛を、この天井の梁で免れたのですよ。梁の2X4材にタイオフでぶら下げたシュリンゲとディジーチェーンを引っ掴んで、起きたり姿勢を変えたりしたんですね。ですからみなさん、何時肋骨が折れるか解らないわけですから、骨が何ともないうちに部屋中に梁を設けておくべきなんです。こんな風に、『備えよ常に』ってのが、我らが幕営団の座右の銘なのです。

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by yabukogi | 2013-05-02 18:03 | 書くまでもないこと
2013年 05月 01日

わたしのヴァケィション

本日から数日間、わたしにも休暇という、天からの授かりもの。




わたしは、火を焚きました。

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わたしは数日前、山尾省三さんの詩を引用して

 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ

ということばを紹介しました。




休暇の初日に、わたしは火を焚く必要がありました。仕事に追われてきたこの身と魂を、炎で清める必要があったからです。あばらが折れていなければ、高い山へ出かけて大地を褥(しとね)に眠り、岩のひんやりした手触りや白き雪肌に反射する陽光から、清めてもらうこともできたのでしょうが....。

兎にも角にも、清めてもらうために火を焚きました。



無目的な火を焚いて、揺れる炎を無言で眺める時間、それが人を人たらしめる時間なのでしょう。もしかしたら焚き火には、生産的な目的があってはならないのかもしれません。



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わたしには、火を焚く目的がありました。心身の清め以外にも、腹を満たす必要があったのです。

背黒いわしの干物は。、2割引でした。
ボウルのどどめ色の気色悪いものは、地鶏のレバーです。



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タレに漬けておいたためか、味わい深く、香ばしく焼き上がりそうです。



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もちろん、ふっくらとジューシーな味わいであったことをお知らせしなければなりません。



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先日も書きましたように、炎と同じ作用で、喉を墜ちて行く熱からも清めていただきました。手前は、炎を沈めるための泡であります。





お休みの方にも、お仕事の方にも、穏やかでやすらかな、忘れ得ぬ五月の始まりという日々が訪れますよう、信州の片隅からお祈り申し上げます。
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by yabukogi | 2013-05-01 17:32 | 書くまでもないこと
2013年 04月 27日

ある日、敗北感に包まれて

今日は、ウイスキーのことを書きます。


自分は、ウイスキーであります。
料理に合わせてワインもジャパンも楽しみますが、泡が出るやつはあまり呑みません。ウイスキーは昔から「角瓶」と決めていました。これを、井戸水で割ってマグを満たし、いただきます。井戸は、まつもと城下町湧水群のひとつ「鯛萬の井戸」です。
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そして毎月のおわりに数本の空き瓶をリサイクルに出していました。



数年前ですが、仕事が忙しくなって酒の量が増えました。ある月、リサイクル置き場に運んだ空瓶の本数が10本あったことも。大きなトートバッグにこの10本をがちゃりがちゃり、運んだわけです。

この日、空き瓶を置いた瞬間、ものすごい敗北感に、僕は包まれてしまいました。いつの間にか、月に10本もの空き瓶を....


我ながら、呆れました。ひと月にウイスキーを10本です。呑み過ぎです。僕は人間をやめる替わりに、角瓶をやめました。




それからは、ニッカにしました。BLACKとラベルに書かれた、安いニッカです。この価格で販売してはたして利益が出るのか、と疑問に思える価格です。700ml瓶で798円。4L入りのでっかいペットボトルが4,180円です。瓶で買うと、角瓶時代と何も変化がありません。毎月のおわりに、空き瓶をがちゃりがちゃり、リサイクルに出すわけですから。こうした理由で、4リットルのペットボトルを買うようになりました。



その頃、転居して井戸が遠くなりました。やむなく、水道水で割ります。松本市街地の水道水は、奈良井川上流の奈良井ダムから運ばれてきます。木曽駒ヶ岳の北に茶臼山(2652.7m)というピークがありますが、この辺を水源とする美味しい水です。なので、水道水自体がとても美味しいのです。近頃話題の東京水には敵わないと思いますが。

ところが、自分にはわずかなカルキ臭が感じられてしまいます。




あるとき沢登りに出かけた際、仲間のいのうえさんが、沢の水をボトル浄水器に汲んでフィルターで濾過して飲ませてくれました。泥臭さも何も無い『南アルプスの天然水』のような味わいでした。

僕も同じメーカーの浄水器を手に入れました。セイシェル社の『サバイバル3』という品物です。山や沢でも使いますが、ウイスキーを割る水に、もっぱら使用しています。
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こうして毎月、2本ぐらい、大きな4リットルのニッカが空になります。しかしラベルとキャップを外してしまえば、もう安いニッカが入っていたとは解りません。リサイクルに出す際も、スマートなものです。



4リットルのペットボトル入りウイスキーを買うには、ほんの少しだけの勇気が必要です。近所のスーパーでこれを抱いてレジに並んでいるところを、ご近所の若奥さんに目撃されてしまうかもしれないからです。もしペットボトルに【竹鶴25年】と筆文字で書かれていれば、「まあ伊丸さん、なんてラグジュアリィ!」と評価されるんでしょうけど。竹鶴25年の4リットル入り、仮に存在したら30万以上ですね、すごい。

さておき、近所で買うのもあれなので、少し遠く店で買い求めます。それも2本セットで。だって、これなら飲食店かなにかやってる風に見えるじゃないですか。もう敗北感とは、無縁の生き様を手に入れたわけです。




ウイスキーを注ぐ、マグのことを書き忘れました。
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チタンの220mlマグがちょうど良かったのですが、もうすこし容量が欲しくて300mlにシフト。その後、450mlサイズだと何度もお替わりしなくて済むことに気付きました。いま、600mlサイズに増やそうかと、考えているところです。
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by yabukogi | 2013-04-27 11:54 | 書くまでもないこと
2013年 04月 23日

火を焚きなさい

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紙切れを拾った。
何時のものか、どこのものかも解らないが、新聞の切り抜きだった。
一遍の詩だった。

2001年に亡くなった山尾三省さんという詩人の、よく知られた一遍『火を焚きなさい』が、その紙切れにあった。





『火を焚きなさい』


(引用はじめ)

山に夕闇がせまる
子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて
大昔の心にかえり
火を焚きなさい

(中略)

背後から 夜がお前をすっぽりつつんでいる
夜がすっぽりとお前をつつんだ時こそ
不思議の時
火が 永遠の物語を始める時なのだ

(中略)

人間は
火を焚く動物だった
だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ
火を焚きなさい
人間の原初の火を焚きなさい
やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き
必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり
自分の価値を見失ってしまった時
きっとお前達は 思い出すだろう
すっぽりと夜につつまれて
オレンジ色の神秘の炎を見詰めた日々のことを


(後略、引用終わり)


「びろう葉帽子の下で/山尾三省詩集」(1993年 野草社刊)より






山尾三省さんは、1970年代にインドやネパール巡礼の旅に出て、その間の思索からいくつものすぐれた詩を発表してきた人だ。アメリカでビートニク世代が反戦運動や自然回帰とか、禅への関心とか、いわゆるカウンターカルチャーが沸騰していた状況に通じる。じっさい、ヒッピーと呼ばれた若者たちが田舎で小さな村を作ったような活動に呼応するかのように、山尾さん自身も屋久島に移り晩年までを過ごしている。

そこに模倣があったという意味ではなく、国家とかイデオロギーとかいろいろな現代的な価値観に疑問を抱いた人々が、自然回帰の流れを持ったというのが、時代のムーブメントだったのだろう。

やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き
必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり
自分の価値を見失ってしまった時


というのは、リアルに当時の人々が抱いていた状況だったと思える。
とすれば、いま現在の我々も、「虚栄の市」で自分の価値を見失ってしまっているのかもしれない。


だからこそ、いま、僕たちは火を焚こう。

写真は2008年12月、神奈川県内のある沢にて。



【参考】詩の全文、英訳が掲載されているページ
http://happano.org/pages/make_the_fire.html
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by yabukogi | 2013-04-23 07:46 | 書くまでもないこと
2013年 04月 14日

わたしの街

わたしの住む街は、とても美しい街です。


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松本の市街地を眺めております。美しい丘の、美しい眺めです。丘には、色とりどりの花々が、春の訪れを祝っているようです。




わたしは、前日からなぞの激痛に襲われ、のたうち回っておりました。
今まで経験したことのない痛みで、たとえるならば、ある人がわたしの背後に立って背中に出刃包丁を突き入れ、一分間に三回の早さでやいばを回転させている、と書けばよろしいのでしょうか。背中のある箇所が、それこそある人が背後に立って... いえ、もう書きました。


姿勢を変えたり、くしゃみをしたり、咳き込んだ時は気絶します。

痛みで意識を失うというのは、映画やドラマの演出ではなくて、実際に起こりうるということを教えていただきました。背後に立った人に。いえ、これは例えであります。



花が咲くこの時期を選んで、町内の公園でお花見が催されました。
わたしは町内のお祭り係りなので、この日は作業をしなければなりませんでした。

その夜明け。わたしは、寝床のシュラフの中で、脂汗を全身から噴き出し、苦悶のうめきと慟哭の狭間にかろうじて命をつないでおりました。トイレに行くためです。痛みをかわしながら身を起こし、とにかくトイレに行って膀胱を空にしたかったのです。

トイレに無事辿り着き、痛みに泣きながら夜明けを待ちました。ふたたび横たわってしまうと同じ痛みを繰り返し経験しなければなりません。椅子に座ってうたた寝をしながら、朝を待ちました。





町内の公園のすぐ目の前に、大きなドラッグストアがあります。

遠ざかる意識をわずかに指先でつなぎ止めて、わたしはドラッグストアへと向いました。もしその姿を、誰かに見られたら通報されたことでしょう。紫色の顔の不審な坊主頭の男が、はぁはぁ言いながら同時に泣きながら、住宅街を徘徊している、と。


しかしわたしは、ドラッグストアへ、どうしても辿り着く必要がありました。

そうです。ロキソニンです。あの桜色したタブレットひとつぶが、いまのわたしの痛みを、苦しみをぬぐい去ってくれるはずです。


平成25年4月13日、桜が満開でございました。
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ドラッグストアに入ったわたしを、店員さんたちが不審そうに見やりました。あきらかに異常な表情、肩で息した怪しい坊主頭の男が入ってきたのです。何人かは、通報ボタンに手をかけたことでしょう。


わたしは、「鎮痛剤」コーナーへ向い、棚の「ロキソニンS錠」の箱を掴みました。そしてその瞬間に箱がダミーパッケージであることに気付かされたのです。そうか、薬剤師に告げなくては...


視界は霞んでおりました。ひたいの脂汗が涙と混じって風景を歪めておりました。店内に、白衣を着た薬剤師の姿はありません。わたしは入り口近くのレジに近寄り、さっき不審そうにわたしを見やった女性に叫びました。

 ロキソニン、ほしい。ロキソニン。



あやしい外国人と受け取られたかも知れません。しかし、そんな些細なことに構っている余裕は、わたしにはありませんでした。

 薬剤師が休みなんです、だからお売りできないんです。



そのレジ係りの言葉が、まっくろな絶望の深淵の口を、押し広げました。世界は暗黒へと転じ、すべての光は飛び去りました。痛みだけが、絶望という二文字とともに、わたしの背中に焼きごてのように定着された瞬間でした。


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同じ頃、50メートル先の公園では、こどもたちやまちの人々が楽しそうに遊んでいました。


べつなドラッグストアまでは数百メートル歩かねばなりません。わたしにはこの移動が不可能であること、それを認識していました。家に帰ることも同様です。わたしにできることは、ご近所さんたち、仲間たちが居る公園に向うことでした。誰かに助けを求めることができるからです。


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わたしを待っていたのは、ポップコーン係りでした。

助手として、一年生の女子大生が手伝ってくれました。18歳のお嬢さんに、この痛みを伝えることはとても困難でした。しかし、近所の人が自宅にあるよと「ロキソニン」を取ってきてくれました。Kさん、ご恩は一生忘れません。

 助 か っ た 。



水で錠剤を流し込み、わたしは群れ集うこどもたちのためにポップコーンを作りました。笑顔で配りました。


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最近、家を新築したAさんは焼きそば係りでした。



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おでんも美味しそうに炊けておりました。

ある瞬間。
たしか19歳か20歳のお嬢さんたちと戯れていた時だったと思います。わたしは、咳が出ました。


地獄を、見ました。




桜の樹の下に移動して、肉を焼いたり餃子を焼いたり、マグに満たした「大雪渓特別純米酒」を流し込んだり、しました。






ひと晩を眠り、また朝が来ました。
地獄の朝とならないよう、身体を起こすためのシュリンゲやデイジーチェーンを頭上の梁からぶら下げて備えました。ピッケルも枕元にあります。このお陰で、無事に起き上がることができました。


近くの休日当番医に出かけました。診てもらいましたが、匙を投げられました。そして大病院への紹介状を渡されました。


大病院は、ヘリポートを備えたでっかい病院です。北アルプス南部で滑落したりしてヘリコに載せられると、だいたいここへ連れてこられるような病院です。

CTスキャンとかMRIとか、さまざまな検査を経て、医師はわたしにこう告げました。

 肋骨がね、ほら、こんなにもポッキリと!





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わたしの街は、とても美しい街です。
信州まつもとへ、いつか移り住みたい、とお考えの方には、良いまちだと思います。










【追記】
町会の皆さま、読者の皆さま、大変にご心配をおかけしました。この場をお借りしまして、御礼とお詫びを申し上げます。

帰宅後のわたしですか?

ええ、やすらぎとくつろぎにつつまれて、過ごしております。
これ以外にも、今日処方箋が出た分を薬局で入手できますので、当分、桜色の錠剤に困ることはなさそうです。
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ロキソニン、万歳!
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by yabukogi | 2013-04-14 14:58 | 書くまでもないこと
2013年 03月 23日

THERMOSフードコンテナー



誰か。その男の、暴走ランチを止めて!


その男。先日は、昼の弁当のスタイルを変えて、温かい弁当を楽しんでいる、なんてどこかに書かれていた。シチューやカレー、煮物を弁当に携えて行くんだ、と。

さらに、すき焼き風の煮込み豆腐を.....


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あぁ... もうこんなの、弁当じゃない。Primusのランチジャグに熱いおかず、THERMOSのフードコンテナーJBI-380に炊きたてご飯、それは許されるよ。

でも、生玉子は反則だ。


 ■□■

その男、恥ずかしいくないのかい?
仕事場の片隅で頂くお昼の弁当に、そこまでするかい?


 ■□■

ん?

この日は何だって?

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左奥がPrimusのジャグ。となりの赤いのがTHERMOSのフードコンテナー。
手前のオレンジのは、GSIのネスティングボウル/マグだね。小さい容器は何だろう? 

あれ。山葵の小袋が写っているようだね。



ああっ!
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たったいま、ネスティングボウルのご飯の上に、何か載せたっ!
フードコンテナーに入れてきたナマモノのようだけど?


まさか...
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これは、づけだよね、マグロだよね、こんなの弁当にして、いいの?

丸い容器からカイワレ、刻み海苔...  
しかもPrimusから煮物まで...。
厚切りのナベ底大根にゆで卵...。

酷いよ、迷惑だよ。こんなのもうやめなよ...。
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by yabukogi | 2013-03-23 15:37 | 書くまでもないこと
2013年 01月 05日

なんてシルキーな午後だろう


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やあみんな、絹ごし豆腐を愉しんでるかい?

前にも書いたけど、僕は豆腐が大好きなんだ。
それもスーパーで30円ぐらいで売ってる安いやつで十分満足なんだ。


穏やかな午後だ。
こんな午後に、どうして豆腐を愉しむことにためらいがある?

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ミニトランギアのナベに昆布を敷いて、白菜の芯の方を削ぎ切りにして並べて、まずは鶏肉を煮る。
ぐつぐついってきたら弱火にして、鶏肉を味わう。白菜も。

左の方に小さな片口が写ってるけど、ここにはね...。
醤油に酒を加えて、黒砂糖すこしとたっぷりの唐辛子を放り込んで、寝かせておいたやつ。
辛いよ。そして美味いんだ。

これに酢を足して、うふふ。


鶏肉を堪能したら、豆腐を入れよう。
白菜やネギと一緒に、こうして用意してある。
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さあ、あったまろうよ。
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ねこの小遣い?

ぜったい上げてなんかやるもんか。
だったらこの豆腐を、もう一丁買うさ。
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by yabukogi | 2013-01-05 17:15 | 書くまでもないこと
2012年 12月 30日

請い願わくば、笠地蔵

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クリスマスの頃、寅さんのfacebookページから、こんな台詞が流れてきた。


上等上等、温かい味噌汁さえありゃ十分よ。
後はお新香、海苔、タラコひと腹、ね、
カラシの効いた納豆。これにはね、
生ねぎ細かく刻んでたっぷり入れてくれよ。
後は塩昆布に生卵でも添えてくれりゃもう、
おばちゃん何にもいらねえな、うん。





朝飯でも馳走になろうとする寅さんが、おばちゃんに言ったのだろう。味噌汁だけで良い、と言っておきながらのリクエストが凄い。まるでうちのねこのようだ。

僕はけっして豊かな境遇で育てられた訳ではないので、欲すること、求めることは「我慢しなさい」と躾けられてきた。だからあまり物欲は無いのかもしれない。

それでも、クリスマスに白ヒゲの爺さんから贈られたゲーム機やら図鑑やらに狂喜乱舞する豆ども(9歳と7歳)を眺めていると、凡夫たるもの、何かを欲し求めることに恥じることもあるまい、と思えるようになってきた。

寅さんだって、納豆にネギを刻み込んでくれ、とまで言っている。

じゃあ、僕も少しだけ。



あたらしいクランポンが欲しいよ。
セミワンタッチで、ハンワグのクラックセイフティーにもスーパーフリクションにも「かちゃりっ」って着けられるやつが欲しいよ。いま使ってる古いサレワのやつは、全部バンド締めなんだ。

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おいお前。
おとこ一匹、京の都は清水の、その舞台から飛び降りる、ってぐらいの気持ちで言うもんだ。
それを、こんなしょぼくれた鉄ゲタはねぇだろう。そんなもン、明日買ってくりゃあ良いじゃあねぇか。

寅さんにこう怒られそうだ。


よし、まだ限度額まで余裕があると見た。こいつでどうだ。

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あのな、ただのチョッキじゃねぇか。
おい。男ってもんはなぁ、もっとこう、でっかく出て行くもんだよ。





また叱られた。
しかたがない。寅さんが言うんだ。


今乗ってるリトルカブは引退させて、ハンターカブが欲しい。

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くぅぅぅ。欲しい。
こいつで林道深く入り込んで、北ア前衛の薮尾根秘峰を探索するんだ。


おい良っく聞きな。
お前さんスケールがね、スケールが小さい。
人生の長い旅路の中でね、幸せを探さない、そんな阿呆な野郎が居るかい?
古今東西、どいつもこいつも、あの孔子さまだってキリスト様だって...







じゃあ、ジムニーが欲しい。
昔乗ってたJA71をカスタムにしたのが欲しい!
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ええい。
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上高地行きのシャトルバス乗り場の近くに、こんな古民家が売りに出されてる。新潟にあった江戸期の古民家2軒を解体した材で建てられ、蔵も別棟で付属。広い敷地から北ア(背中になるため)は見えないが、たしか鉢伏方面が眺められたはずだ。地形図で大明神山とあるお山の南側に建つ。徳本峠に続く島々谷の入り口も、すぐ近所だ。

ずっと5,000万で出てたけど、500万下がったんだ。

ねえ。笠地蔵さん、大晦日には笠を持って行くと約束するよ。
だから、上に書いた鉄ゲタとかチョッキとかは要らないから、この家を....
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by yabukogi | 2012-12-30 03:15 | 書くまでもないこと
2012年 11月 24日

やあみんな、虫は好きかい?


先日、虫のことを書いて、いや正確には「食虫」習慣のことを書いてひんしゅくを買った。気分を悪くなさった方もおられるかもしれない。すいません。


今日も虫のことを書くよ。虫じゃなくて、蟲かな。だから、この先は、気をつけて。まさか、何か食べながらこんなblogをご覧になってる、ってことは有り得ないと思うけど、一応念のためウインドウを閉じてブラウザのキャッシュを消去して、っていう勧告はしたよ。じゃあ、始めようか。





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先日の【蜂の子】の佃煮、一気喰いしたんだ。酒のアテに。

その夜は全然眠れなくて、明け方まで眼が冴えてしまって身体が火照って、それはそれは辛かった。翌日も微熱っぽくて、信州の冬だというのに暑苦しく感じてしまって、大変だったんだ。だから蜂の子を大量に食べるのは、やめた方が良いかもしれない。残念だけど。




冬が来ると、ある虫たちのことを思い出す。

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これはとても大きな個体だ。マルハナバチ? と錯覚したぐらい。北アの稜線に上がる有名登山口のトイレの壁にへばりついている。背景から紅葉真っ盛りだと解るけど、寒さに震えてるんじゃなくて、彼は死んでるんだ。たくさんの仲間たちと一緒に。餌が良いから、新鮮な餌がたくさんあるから、夏の間は大繁殖。それが秋深まってハイカーが減って寒さが募ると、こうして屍を晒してる。



その繁殖力、そして幼虫の栄養価に着眼した偉大な人が居る。

数年前に中公文庫で読んだ記憶があるんだけれど、西丸震哉さんの著作のどこかに書いてあった。さきの大戦に口惜しくも敗れ去り、我が同胞は飢餓の危機にさらされていた。そのころ、公的な研究機関に所属していた西丸先生、この生き物の幼虫を大量に養殖し、蛋白質に満ちた真っ白なその幼虫を加工して、食用にしようと研究なさっていたそうだ。たしかに養殖はきわめて容易だろう。北ア稜線の山小屋のトイレだって、凄いからね。新鮮な餌さえあれば、蜂みたいなのが毎日湧き出てくる。

とにかく、食用化計画が実現したのか? そんなことも含めて興味ある方は、お調べになってみるといい。




北アの稜線で思い出した虫がいる。続けるけど、いい?
もしご自身の記憶や体験に引っかかる出来事があっても、僕には責任を取ることが出来ないよ。じゃあ、続ける。







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こいつらは、小さな甲虫だ。体長が1センチにも満たない。北アルプス南部では、夏の間、たくさん見かけられる種類だ。名前は知らないけれど。



ただの甲虫?

でもね、数が多いんだ。



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これは、集めたんじゃない。自然に吹き溜まったとか、軒先から落ちてきたとか、そういう結果だ。

こいつらが、理由は知らないのだけれど、天気がいいと山小屋の屋根に、大量に集まってくる。数万、数十万という数だ。山小屋では、屋根の上で布団を干すことがあるのだけれど、小屋番が屋根を歩くとシャリシャリと潰れる音がするぐらいの数だ。そして屋根のトタンの上で、みんな死んでるんだ。ころころと。雨樋が、詰まってしまうほどに。



なぜ彼らは屋根に集まってきて、そこで死んでいくんだろう?

けれど重要なのは、その理由じゃない。結果と言うか、その先の話だ。





稜線の山小屋では、幸運にも近くにポンプアップする沢があるような恵まれた小屋は別として、飲用水を天水に頼っている。雨が降り始めると屋根の雨樋からタンクに水を引いて貯めておくんだ。もちろん、途中には網をセットして、雨樋にあったゴミが混入しないようになっているし、タンクの水には消毒剤が加えられているけれど。


ある種の、ジュースだね。味わい深い。



だから、衛生的にはまったく問題がないけれど、山小屋で天水を買う、ということはこういう場合もある、ということを理解しておいた方が良い。ジュースは嫌だ、という方は、ペットボトルを買うか自分で担ぎ上げる方が安心なのかもしれない。


僕?

ぜんぜん平気。湧かしもせずにごくごく飲んで、ぜんぜん平気。
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by yabukogi | 2012-11-24 16:25 | 書くまでもないこと