夏の一夜を、峠で過ごした。
あの山の裏側にある、小さな峠に向う。そこで眠るために、僕は荷物を担いで信州まつもとを離れたのだ。
僕を乗せた列車は、歌の文句とは違って信州から甲州路へと走る。
甲府駅では、しばらく会えずにいた友が迎えてくれた。そして可愛らしいお嬢さんも。芦安でバスに乗り換え、揺られ揺られ久々の広河原。さらに、違うバスで北沢峠へ。
あの年、冬の小梨平で酌み交わして以来。まずは乾杯。
すぐる年、残雪の八ヶ岳以来の乾杯。そして乾杯。また乾杯。
晩ご飯はうどん。お揚げが乗ってるのは、松本の美味い豆腐や【
田内屋】さんの筑摩揚げというものを炊いたもの。
メインディッシュは、途中のコンビニで調達した絹豆腐。
夜の帳(とばり)が降りて、尽きぬ話を無理矢理切り上げてテントに潜り込む。みんなグッナイ。
朝。
稜線へ、山頂へと向う仲間を見送って、僕はテントをたたんだ。装備をまとめ、山を後にする。
またバスに揺られ、バスを乗り換え、長い時間を狭い座席で過ごし甲府駅へ。
遠ざかっていく南アルプスの山並みを肴に、ちび、ちび。
諏訪を過ぎて松本平に入れば、今度は北アの山々に出迎えられて、ウイスキーを飲み干す。
山の神さま、ありがとう。
山の仲間に、ありがとう。
家に帰って洗濯しながら、庭の菜園から季節の恵みを頂く。
季節の恵みと言えば、そうだ、梅を干し上げねば。
あれ。
あ れ れ 。
何故か、このビジュアルが......
いや、去年の梅干づくりとかそういう引っかかり方じゃない。もっと直近、昨日今日の出来事と関わってる。奇妙な既視感に捕われながら、僕は数秒で凍り付いた。
け、今朝の、峠のテント場....
完全に一致。