その男、薮の彼方に消ゆ

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2013年 06月 22日

所詮はただの にら男

滝谷ドームの如く、高々と盛り上げられた真白き飯に、ひと箸の生にら醤油漬けを載せる。にらからしたたり落ちる醤油ダレは、いまこの瞬間までどんな色にも染まることを拒んできた汚れなき純白の飯を染めていく。しかも強烈な臭いまでまとわせて。





あぁっ.... はうぅっ....


奇妙な叫びは、呑み込まれる飯に押し戻されて、声にならない。あう、はう、ぬうぅ、男は異様な呻きの末に胃袋を満たし、ようやく沈黙する。



男はもの憂げに身を起こすと、この生にら飯が、目覚めの寝床の浅い夢であったことを、識る。



  □■□

その男はついに、生にらの醤油漬けに手を出してしまった。

しかもベースとなる醤油漬けの醤油、行者にんにくを漬け込むこと一ヶ月、香りと味わい、たっぷりの硫化アリルを溶かし込んだスペシアルな醤油。味わい深いのには、理由があるのだ。

かつてその男、五月のある日、行者にんにくの醤油漬けをこしらえた。その美味さに毎晩の舌鼓を打ち、また友に贈り、食べ尽くしてしまう。残されたものは、具の無い醤油ダレのみ。男は呆然とし、後悔を超えた悔恨の激情の狭間に「あの味わいをもう一度!」と魂の叫びを上げたのだ。そしてついに、失われた行者にんにくへの過度の執着が「ニラでも良くね?」と代替物を発見した次第である。


八百屋に出向き、新鮮なにらを数束、求める。洗って水気を切る。これを刻んで漬け込む。空気に触れぬよう密閉し、冷蔵庫で一晩寝かせ、さらにもう一晩。

しかし、ここで男の計画が破綻する。

土曜日の朝めし。あの生にら醤油漬けを、臭いを気にすることなくたらふく喰ってやろうと企んでいたのだが寝坊、9歳の大豆と7歳の小豆に、白飯をぜんぶ食われてしまったのだ。




  □■□

呆然と空の炊飯器を覗き込んでいた男の視界に、何かが捕らえられた。


あ!
こんな所にこんなものが。



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キッチンの棚に放り出されていたのは、マルタイの棒ラーメン、しかも「九州味」ではないか。これをこしらえて、あの生にらを載せものとして堪能するのだ。男は天魔に魅入られたかの如き勢いで鍋を火にかけ煎り胡麻を取り出し半熟玉子をこしらえる。そして....



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紅生姜も高菜漬けも、青葱すら切らしていたが、なんとフォトジェニックな生ニラ載せ豚骨ラーメンだろう....。







またひとつ、レジェンドが誕生する瞬間を、目の当たりにしたようだ。
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by yabukogi | 2013-06-22 09:24 | 喰い物のこと


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