ある宵。
安曇野を流れる梓川のほとりに、大きな月が昇ってきた。
満月近いまぶしさに、目眩すら覚えて僕は岸辺に座り込んでしまった。ぼうっと眺めていたら、足元の流れが膨れ上がっていることにも、気付いた。上高地から乗鞍から、大量の雪代が集まっているのだ。そういえば、天狗原のあたりから、また横尾尾根の上の方から、槍沢の断崖に向って何本もの滝がかかる。初夏だけのまぼろしのような滝なのだけれど、東鎌尾根あたりから眺めてるとその迫力は凄いもので、7月半ばに消えてしまうまで、轟いている。そんなことを思い出していたら、月は高く鉢伏山の上に移っていた。
春の訪れを喜んでいたら、いつの間にか夏が兆していたようだ。
数日後、安曇野豊科付近をうろついていたら、田植えの済んだ田んぼに、金色の光が満ち満ちている。大滝山、蝶ケ岳、常念から遠く小蓮華までの稜線のシルエットが憎い演出。
うわこれもうつくしい時間だなと、田んぼ道に座り込んでしばらく眺めてしまった。
その同じ夕方。
山越えをして家に帰ろうと、とことこカブを走らせていた。峠付近で振り返ると....
空はあざやかな茜に染まって、燕岳稜線の向こうの輝きが、安曇野の田んぼにまで。うわあこりゃたまらんと、また座り込んでしまい、暗くなってからケツを上げた。
信州安曇野界隈、うつくしい季節を迎えている。