その男、薮の彼方に消ゆ

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2012年 06月 03日

さあ。厚切りの人生へ。

豚バラ肉の塊が、長い旅を経て
ようやく丼に盛られるまでの、小さなものがたりだ。




幼少の頃、TVで眺めていた『はじめ人間ギャートルズ』では、分厚いマンモスのステーキがご馳走だった。凄かった。ああいった場面では、あまり肉を喰わせてもらえなかった自分にとっては、ただごくりと喉を鳴らすしかなかったのだ。

この体験は、僕のこころの傷になる。




長じてのち、僕はささやかな暮らしを、信州の片隅で、それこそ小鳥が雑木林に巣をかけて暮らすように小さな人生を送っている。そんな時、見たのだ。

成功しているビジネス・パーソンである実兄が、あるメディアでプライベートな時間を披露していた。目白のステーキ屋で厚切り肉を食べていたのだ。たしか短角和牛と書かれていた。それも娘のバイオリンの発表会の帰り、だったのだ。僕は驚愕した。バイオリンに分厚い短角和牛。次元が違う。

し、しかも、兄はメルセデスのSクラスで、僕はHONDAのリトルカブだ。

うまく言語化できないけれど、僕は、打ちのめされた。







僕が立ち上がるためには、厚切りの肉が必要だった。

けれども分厚い短角和牛なんて無理だから、信州のポークに、そのバラ肉を分けてもらうことにした。
こうして、ようやくこの物語が始まる。






初夏の兆しが、この山国にも足音を聞かせてくれるようになったある日。

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なんと言うけしからん情景だ。
Mr.ポーク、命ある時は、どんなに健やかに暮らしていたことだろう...。
君の命を、僕がいただく。たいせつに、君の命をつなごう。



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肉は、かつて命そのもであった尊きものだと思っている。
だから、これをいただく時には、こころを鎮めて、祈りを捧げて、手順を踏もう。
ありがとうMr.ポーク。ありがとう、餌になった穀物たち。




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やはり、背徳的なヴィジュアルだ。
あまりにも蠱迷的で、雄弁で、印象的な、その焼き色....。

あの夏の終わり、南の島で出会ったあの娘の...



いや。まだ火を通し切っていないし、このままいただく訳ではない。




事前に野菜のスープを作っておいた。
ニンジン、長ネギ、ニンニク、ショウガなどを炊いてあるのだ。

ここへ.....

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最初だけ、強火。
灰汁を掬って掬って、あとはとろ火でスープを濁らせないように、そっと炊く。




二時間ほどしてから、様子を見てみる。

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紹興酒。蜂蜜。ザラメ。そして野菜スープも足す。
もうしばらく煮込んだら、甜麺醤(テンメンジャン)と醤油も。







こうして完成したMr.ポークの角煮は、その後も何度か火を通された。
味を馴染ませとろみを増し、秘蔵されて。






マルチャンの【正麺・豚骨味】に盛られた、Mr.ポーク。
青ネギ、その下のキャベツ炒め、隠れてしまったキクラゲ、ニラのおひたし、白ごま、白胡椒、滑らかな麺、そして白いスープ。これらはみんな、Mr.ポークのためにバックコーラスを歌う。
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Mr.ポーク。歌うがいい。叫ぶがいい。

 " さあ!! 厚切りの人生を! "
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by yabukogi | 2012-06-03 08:56 | 喰い物のこと


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