その男、薮の彼方に消ゆ

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2011年 03月 06日

さよならマクドナルド...

少し前のことだ。僕はハンバーガーに、別れを告げた。


あれはまだ寒かった日々。僕はいつものようにマクドナルドのドアを開け、カウンターでいつものようにバーガー2個とポテトとコークを頼み、席について文庫本を読みながら、まずテリヤキチキンにかぶりついた。開いたのはたしか、塩野七生さんの『コンスタンティノープルの陥落』。左手で文庫を開いたまま保持して、右手でテリヤキの中のレタスに絡んだソースとマヨネーズが垂れないように細心の注意を払いながら、地中海世界における中世と言う時代の、ひとつの区切りが訪れる瞬間を追っていた。


テリヤキを堪能すると、ポテトに移る。2本ずつを口に放り込みながら、また活字を追う。間にコークを飲む。僕はこの瞬間のために、コーヒーではなくてコークを選ぶんだ。ポテトでかなり満たされ、さて、とマックポークの包みを取る。ひとくち、ふたくち、いつものように「まじうめぇっ」とか呟きながら、当時のイスラム世界が孕んでいた征服欲の強さに驚嘆する。やがて、新潮文庫版では237ページで、東ローマ帝国は滅びる。あぁ... と呻き、少しの時間の放心を経て、僕はマックポークの残り半分に立ち向かう。


しかし、進まない。
ポテトも半分残っている。
なのに食欲のカルナバルは終わりを告げていた。
もう僕の胃袋にはキャパが無かったのだ。




そうか。カルナバルは終わったのだ。

カルナバル。それはこの店のドアを開けた時に始まったんじゃない。少年時代に住んでいた田舎町の、あのハンバーガーショップ。小遣いを握りしめ出かけ、僕はバーガーにかぶりつく。あまりの美味さに涙をこらえて、しかし泣いたら負けばい、泣かんばい、おいは泣かん... 、そんな思いを交錯させて味わった12歳の春。やがてカネを貯めて中型の免許を取って、まだ空冷だったRZ-250の中古を買う。セパハンにバックステップ、ぱんぱんとチャンバーを鳴らして走って行ったのは郊外のモス。そこで口にした本物の「テリヤキ」はたましいを裏返すほど美味くて、僕は食べ終わってから2個を追加オーダー。帰ろうとヘルメットを被ったら、行く手の西の方向にでっかい夕陽が燃えていたあの国道。そう、バーガーにかぶりつくという行いは、僕がすごした九州の、少年時代の甘美な思い出に直結しているのだ。


2011年2月。
僕はバーガーを、こころから楽しめなくなっていた。大人になり過ぎたのだ。もう、少年時代からそうしてきたように、ハンバーガーにかぶりつく、そういう年齢じゃないことを悟ったのだ。何かを追いかける日々はとっくに過ぎ去って、何かに追いかけられる日々を生きているのだ。



ある雪の朝。
僕は朝飯を作っていた。


さよならマクドナルド。さよなら僕の少年時代。さよなら僕のカルナバル。僕はいつの間にか大人になりすぎて、大人らしい静かな朝飯を整える。さようなら青春。さようなら遠い日々。

いまはこんな朝飯がうれしい。

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by yabukogi | 2011-03-06 21:19 | 喰い物のこと


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