人気ブログランキング | 話題のタグを見る

その男、薮の彼方に消ゆ

imalp.exblog.jp
ブログトップ
2011年 02月 07日

酒とネオンとカツ丼と

まちの酒には、悔いが残る。


何軒かのドアを開け何本かのボトルが空き、
何回かタクシーに乗り込んだのは覚えているけど、
何処で何をしたのか、もうわからない。

財布の紙幣がすっかり消えているのに膝に青あざができていたり、
携帯電話の待ち受け画面が書き換えられているのに
愛用のグローブが見当たらなかったり、
ご婦人の名前と電話番号らしきものが書かれたカードが
ポケットに押し込んであったりするけれど、覚えていない。

そもそも「みれい」って誰だ。







山で飲む酒は、こんなに複雑怪奇じゃない。


テントを張って寝袋を干して、
まだ高いお陽さまを仰いで地べたにケツを据え、
プラティパスに入った1リットルのウイスキーをちびちび舐めながら
悠然と稜線の風景を味わい、
サラミかチーズを齧って深呼吸して夕暮れ前にいちど眠りに落ちる。

曲を決めろとか見知らぬ女性のドリンクがどうとか、
カードのサインをしろとかフルーツがどうとか、
そういう煩わしいことが一切ない。
少し眠って山小屋のトイレで放尿してからクッカーで湯を湧かして
アルファ米を戻して腹がくちくなると遠く八ヶ岳辺りから月が昇る。

母親でもないひとをママと呼んだり、取引先でもない人から社長と呼ばれたり、
そういう面倒臭いこともなく夜が来る。
夜が来たことに気付かないうちに眠りに落ちて、
稜線をどこまでも歩いている夢を見て、夜明け前に目覚めるだけだ。

化粧の上手なひとと赤外線を交わしたり
趣味でもない歌謡曲を口ずさんだり
真夜中に寿司屋の暖簾をくぐったり、
そういうややこしいことがない。





悔やむまい。


たまにはつき合いが大事だってこともわかってるのだ。
おのれひとりで生きている訳ではないのだから。
そうだ、つまらない話に相槌を打ったり、
初めて会うお嬢さんの悩み事を真剣に聴かされたり、
名前も知らないひとの寿司代を払ったりすることも、
きっと僕の人生の肥やしなのだ。


その肥やしから実りを得るために、僕は朝飯のことを考える。
朝飯というものがどれくらい大切か、僕はきちんと理解しているのだ。
だから朝飯を、ちゃんと食べるのだ。


酒とネオンとカツ丼と_c0220374_11583551.jpg

めしは、どんぶりの「ツライチ」が基本なのだ。




酒とネオンとカツ丼と_c0220374_11592946.jpg

ソースが香るぜ。


酒とネオンとカツ丼と_c0220374_11595766.jpg

信じられるかい? 
せっかくさくさくに揚げたカツを、つゆでぐだぐだに煮てしまうなんて。
カツ丼と言えば、キャベツだよ。



酒とネオンとカツ丼と_c0220374_1211865.jpg

カツの厚みは、おとこの人生の厚みと同じじゃなければいけないんだ。
カツの量は、おとこが信じてきたものと等しくなければいけないんだ。

そうなのだ。
カツ丼と言えば、この信州でカツ丼と言えば...


酒とネオンとカツ丼と_c0220374_1233343.jpg

ソースカツ丼なのだ。
ちくしょう。あの女、高えネタばかり、喰いやがった。


あぁ...でも、空っぽになった財布が空っぽじゃなければ、
昨夜のことがゆめ幻であったならば、あたらしい山靴を買えたんだ。




酒とネオンとカツ丼と_c0220374_125069.jpg

ばかやろう。

そろそろ、高い所でテントを張って、月を仰いで酒を飲みたいよ。

by yabukogi | 2011-02-07 12:14 | 書くまでもないこと


<< 白きたおやかな豚骨      とんこつ狂想曲 >>