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その男、薮の彼方に消ゆ

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2010年 09月 06日

鹿島槍ヶ岳・二日目前半

2010年8月24日朝。槍隊放題2010、二日目前半。


テントのベンチレーションから、白くて丸い光が差し込んでいる。街灯? 一瞬、山に来ていることを忘れ、庭か公園にテントを張って寝ているような錯覚を覚える。あぁ...劔の上にさしかかった月だ。そういえば、ここは鹿島槍の南のあたりの稜線だ。明日は満月なんだ。そう思い至ると同時に、シュラフの上で大の字になっていることにも気付く。喉が渇いた。開けっ放しの前室に転がるボトルを手にする。フライは下げてるから、外の様子まではわからない。たぶん幾張りものテントが、晃晃と月の光を浴びているに違いない。



いつ眠ったのか、覚えていない。でも、02時起床03時出発と打ち合わせたことは間違いない。時々時計を見る。物音、気配はしない。風もない。誰かが起きた。ジッパーの開け閉めの音が聞こえる。他のテントからも聞こえる。02時を過ぎたところだ。狸寝入りしていると、03時近くになって鬼軍曹ナッツ氏と思われるライトが迫って来た。やばい! 鉄拳か! 無言の起床命令に瞬間的に起きて支度を始める。水500、行動食、ジャケット、ポール1本。僕ら七人は、月の光が照らすテン場をあとに、物音も立てずに歩きはじめる。



まだ夜明け前の稜線は、満月に明るい。東には大町市街地の夜景、そして昇る夏のオリオン。西には月光の立山と、劔。足元には夜露をまとったチングルマ。蛍光塗料のようにヘッデンの灯りを反射する植物もある。いろいろと冗談を言い合いながら布引山に向う。登りが苦しい。息があがる。昨日の疲れが抜けていない。パワーとスタミナみなぎるジョリィ/ナッツ/カワム3氏が先行、僕ら後続はゆっくりと足を前に出して行く。



稜線の灯りは、南の爺ヶ岳の西側に、種池山荘のものだけ。やがて黒部川を挟んで大観峰にひとつ。やがて劔沢にひとつ、灯る。みんな夜明け前に行動を始めているのだ。立山の向こう、日本海の海原だろう、遠くで稲妻がはしる。真南の木曽山脈方面でも光る。音は無い。稜線の小屋の灯り、遠い稲妻、そして先行する仲間たちのヘッデン。いくつかの灯りを追っていると、東の水平線が深い群青に明けて行く。群青の下は紫煙を流したような雲の海、海。雲海と群青の境目に、朱が混じる。黄色い輝きも生まれる。そのひかり、グラデーションのあまりにも美しい色彩の構成に混乱してしまって、支離滅裂なことを口走ってしまう。振り返れば、まだ暗い空の下に、槍と穂高・前穂のシルエット。興奮が高まる。そんな混乱と興奮の中で、いつの間にか僕は鹿島槍の南峰(2,889.1)に立っていた。



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ハゲザイル、万歳! 
頭髪よ3ミリの栄光に!  photo by Jun氏 【訂正:カワム氏】










握手とハグ、どちらもあくまでも固く。写真を撮る者。広い山頂を点検するかのように歩き回る者。だまって周りの山と遠くの山を眺める者。雲海の彼方がどんどん輝いてくる。そして、サンライズを待つ。わおぅと言い、うぎゃあぁと叫ぶ。陽が昇る。そんな中で、ジョリィ氏は湯を沸かし、なんと珈琲を淹れている。北アの夜明けの山頂で、淹れたての珈琲を味わうという、至福...。


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鹿島槍ヶ岳・南峰、フォトはby カワム氏。【訂正:Jun氏】だって僕はカメラを持たなかったのだ。


日の出と反対方向を見れば、チンネのまっすぐな影が八峰側に刻まれてる。劔にも、朝が来たのだ。ここまで来ると北の大窓、赤ハゲ白ハゲまでがよく観察できる。いつの日かは判らないけれど、5日ぐらいまとまった休みが取れたら、行くのだ。馬場島から白萩川ブナグラ谷を詰めて、赤谷山から南へ... この大窓越えこそ、僕が憧れ続けている北方稜線。水の確保に悩むけれど、7月ならば大窓に残雪があるだろう。


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坊主頭で、劔に何を思う... フォトはby カワム氏。【訂正:Jun氏】



北には五竜。でかい。南へ視線を向ける。穂高を単眼鏡でのぞけば、ジャンダルムが親指を立てたようにくっきり見える。劔と穂高、ふたつのジャンダルムを同時に眺められるって、なかなか素敵じゃないか。さて。佇んでいても北峰には行けないよ。すっかり明るくなったガラ場を慎重に下る。ポールを枯れたハイマツにデポして、吊り尾根の真ん中の雪田脇を通って、北峰(2,842)に立つ。


キレット小屋が覚えず近い。小屋前のベンチのペンキ文字が読めそうだ。東尾根ルートの観察、アラ沢ノ頭と天狗尾根、カクネ里の眺め、そして南峰を振り返る。おおぉ。さらにその先、劔の三ノ窓を通して、池ノ谷の奥に聳える剱尾根ドーム(2,721)が顔を出してる。さすが、窓という表現は納得できるというものだ。ふふ、そしてわずかに移動しただけでシルエットが変わる劔というのも、かっこいいではないか。


南峰に戻る。みちのく訛りのおかあさんが話しかけてくる。こんど燕と常念を歩くそうだ。聞かれるままに、いろいろ教えてやる。南峰にデポしてあったボトルや何かを回収、ジョリィ氏とふたり、歩く。禁煙のこと、畑と野菜のこと、スキーのこと。稜線の歩き、こんなに遠かったっけ。チングルマの群落を過ぎれば、テント場はすぐだった。みんな飯を喰ってる。いろいろ予定はあったが、手っ取り早くラーメン。カワム氏がキクラゲとネギをくれた。彼もラーメン中、お返しに高菜漬けを差し上げる。トッピングが美味い。ああ、僕の根っこは九州人。そしてここは、北アルプスだ。


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これは8月23日、冷池付近から、僕の携帯カメラで。

by yabukogi | 2010-09-06 14:30 | 北アルプス・主稜線


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