2010年 07月 01日

何でも味噌で焼いてやる。

味噌が好きなのだ。

味噌汁、味噌煮はもちろんのこと、胡瓜にも味噌。焼き茄子にも、味噌。しかし味噌の味噌たる醍醐味を堪能するならば、【焼き味噌】を越える香りと味わいは、あるまい。炙った味噌の悪魔的な美味を讃えることはできても、例える言葉は存在しないほどだ。


秩父の谷の底で何日も過ごしたことがある。担いできた文庫本を読み終えてしまって、さて明日は街に戻ろうか、と思案していた。本音はラーメンばかりの食事に飽き飽きしていたのだろう。そんなおり、降りてきた釣り師のおじさんに「まだ居るのか?」と尋ねられ、返事を口ごもっていると袋から魚が取り出され、山女5匹を渡された。もしかしたら岩魚か鱒だったかも知れない。受け取った時に、泥だらけだ、と思ったら味噌を塗りたくってある。ワタが抜かれた腹にも味噌が詰め込まれている。焼いて喰えば良い、というようなことを言われ、アルミホイルも貰った。焚き火は消えていたけれど、おじさんが去ってから火を起こして、ホイルで包んで焼いたら美味くて涙が出た。


この日僕は、味噌に魂を売ったのだ。


味噌味噌と言っても、バリエーションを作ることができる。春先の蕗味噌はよく知られるが、本稿では【青唐辛子味噌】というものを使う。当地で【こしょう味噌】とも称するのは、唐辛子の仲間を「こしょう」と呼び「小生」の字を当てるところからそのまま来ている。盛夏に出回る青唐辛子を刻んで炒めて味噌にまぶす手順などは、旧blogにも書いた。そのときのこしょう味噌が一年ものとなり、いい感じになってきたので試してみるのだ。



c0220374_6165565.jpg

若鶏のもも肉をこしょう味噌で5日間を漬け込んで炙り上げた、の図である。




春の連休に出かけた鳳凰でも、信州和牛霜降りサーロイン、というやつに同じ味噌を塗って担ぎ上げた。南御室のテン場にて、こいつを炙って皆さんに味わっていただいたのだ。唐辛子味噌に混ぜ込む唐辛子には、シシトウ程度のまろやかな辛みのものから中南米にありそうな地獄のスパイスまで、幅があるだろう。僕は毎年、出来る限り辛いものを使う。舐めただけで火を噴くようなやつを。カプサイシンがどの程度含まれるのかは知らぬが、一年の熟成期間をおいても爽やかに鮮やかに、辛い。このカプサイシンのはたらきに加えて、味噌の麹・酵母・乳酸菌による強烈な雑菌抑制作用で、生肉の保存性を高めようと言うのだ。

以前に地元の味噌蔵の社長と話した折り、味噌の偉大さを聞かされた。トラフグの白子漬け、である。テトロドキシンの塊のようなフグの白子が、味噌に漬けられて数年を経ると食せるようになる、という話であった。僕はこのテトロドキシンが分解されるとか解毒されるとか以上に、「漬け込んで数年」という部分に反応してしまったのだ。そのような超長期保存!


超長期という話はさておき、仮に生肉が二日ほど常温保存できるならばありがたい。稜線に担ぎ上げて焼き肉でもあるまいが、フレッシュな肉を堪能することが出来る。もっとも微生物がしっかりまわって熟成された味噌漬けをフレッシュと言えるかどうかは別だが。



c0220374_845988.jpg

鶏もも肉はドリップを丁寧に拭き取ってから青唐辛子味噌を塗る。塗りながらぷすぷすと皮に穴を穿ち、味噌が馴染みやすいように下ごしらえする。



c0220374_8463036.jpg

ラップでぴっちりとくるまれ、さらにジップロックされたもも肉。翌日には焼いて味わうつもりだったが、すっかり忘れてしまった。まる5日間を冷蔵庫の中で放置され、微生物は好きなだけ肉を蹂躙できたことだろう。



c0220374_8474724.jpg

120時間後に取り出された肉。臭いに腐敗の兆候は無かった。余計な青唐辛子味噌をぬぐい去り、これから焼くのだ。炙るのだ。



c0220374_8504298.jpg

プライパンではない。グリルだ。直火だ。炙るのだ。


炭火であれば何も言うことは無いが、これで充分。山のテン場で焼く方法は、フォールディングトースターあたりが良いのだろうが、トランギアの青い炎で炙ってみることも、いちど試してみよう。そして梅雨真っ盛り、湿度も気温も、上等。生肉と魚で、味噌漬け常温保存実験もやってみるか。



ああぁ... なんて美味いんだ。この夏は、味噌を塗った茄子を焼こう。新ジャガにも味噌を塗って焼こう。春のネマガリダケは残念ながら味わえなかったが、夏の味わいを味噌尽くしにしてやる。何でもかんでも、味噌で焼いてやるのだ。
[PR]

by yabukogi | 2010-07-01 09:03 | 喰い物のこと


<< 雨上がりの葉陰に      梅酢炊飯防黴観察録 >>