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その男、薮の彼方に消ゆ

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2010年 06月 07日

雪渓詰めて夏常念

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バラクラバを持って来るべきだったと、すこし後悔していた。

アイゼンを着けている間にも、北アの奥から、黒部源流の方から、凄まじい風が吹き付けて来る。このスナップを撮ってくれた同行のカワムさんとの会話もままならない。その風に乗って、霙か雪か。白くこまかい粒が、昨日のものと思われるトレースの靴型に溜まっていく。ジャケットのフードがめくり返される。

風速のせいか零度近い感覚を持っていたけれど、カワムさんの温度計では気温5度。やがて西から東へと渦巻いていたガスも途切れはじめ、青空が広がってくる。うむ、この空を。この色を見るために、ここへ来たのだ。







常念小屋の建つ乗越から仰ぐと、山頂付近にはほとんど雪が見られなかった。が、偽ピークを越えてあと少し、というところに広い雪面が残されていた。乗越に着くまでの雪渓の腐れ雪とは違って、嬉しいほどにカリカリしている。ひゃほー! 雪面をクリアしていくつか大岩を越えたら、そこは山頂。



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槍・穂高はガスの中。流れるガスの間から、霞沢岳、上高地、蝶ケ岳方面が望まれる。

去年来たのはいつだったか... 思い返せば何と8ヶ月ぶり。その日は、法曹の世界を志すひとりの青年と、ここで出会ったのだ。彼のこころざしの行方を、山の神に問う。御神託をいただく。同行のカワムさんと記念写真を撮る。そこまでで限界、風の冷たさに耐えられないよ、もう降りよう。

ここは山頂からの下りの風景が好きなのだ。正面に燕を眺め、遠く鹿島槍の猫耳の間から、五竜と白馬が顔を出すという素敵な眺めが待っている。あいにくの天気で鹿島槍も見えなかったけれど、まあいい。




2010年6月5日。ご近所のカワムさん(コカゲイズム)と、「常念行こうよ」と出かけてきたのだ。一ノ沢には雪がたっぷりありそうだし、天気予報では、晴れ。標高3000mで気温氷点下の予想も出ていたけれど、もう6月だ。一応は冬装備の日帰りということで、一ノ沢の登山口を02時30分に出発、朝のうちに山頂に立とうと漆黒の闇の底を歩いてきたのだ。



      ◆◆◆


笠原のあたりでうっすらと空が明るくなり、笠原沢の出合いを過ぎてヘッデンを消す。


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折れたダケカンバの無惨な姿に、はしる雪崩のエネルギーが想像される。春から初夏の雪渓の上には、こんな樹々がばらばらになって散在している。もちろん崩落してきたばかりの岩塊も。



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雪渓には独特の匂いがあって、蒸された土に似てると思っていた。その匂いの素も、こうやって雪崩が持って来るのだろう。巨木が根っこから、大地からもぎ取られて無造作に放り出されている。



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夏の一ノ沢コースは、笠原の先から雪渓を辿り最後の水場で小尾根に乗る。この日はまだ冬コースで、左俣の支沢をそのまま詰め上げるようにルートがつくられていた。尾根をジグザクに登っていく同じ距離・標高差をダイレクトに詰め上げるのだから、傾斜はきつく僕にはストックじゃ登れない。フォトはカワムさん。



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06時38分、雪渓を詰め上げると、そこは常念小屋の建つ乗越。ここにはDocomoのアンテナが設置されていて、こいつは冬の間解体されて下界に運びおろされるそうだ。もちろんヘリコで。建てたままにしておくと、冬の間の烈風で吹き飛ばされるらしい。こんなごついアンテナを吹っ飛ばすなんて、どんな風が吹くというのだ。



ここからは休憩も入れず、山頂へ向かう。08時ちょうどに山頂に立ち、すぐさま下山したのは前述の通り。さあ、何か食べて、冷えた身体を温めよう。しかし小屋の前のベンチでは、風が強く火が使えそうもない。小屋の休憩所を使わせてもらうことにする。


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売店の酒棚は、こんな様子だ。いつもこの通りかは知らないけれど、ウヰスキーもある。



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カワムさんが、手際よく何か調理している。なんと、山でバーガーを味わうことになるとは! ぱりぱりのレタス、フレッシュなトマト、熱々のハンバーグがふわふわのバンズに挟まれている。ワンダフルとしか言いようがなく、美味さに泣きそうになっていただいた。



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小屋を出ると、槍の穂先が顔を出した。しばし対峙し、しばし見入る。


      ◆◆◆


帰り道は雪渓をグリセード。尻で行くには傾斜もタイトなコーナーもやばそうで、ブーツで行こうよ。シャーベットの上をずるずる滑って遊んでいると、あっという間に笠原に降りる。うおっ! 朝はまだ暗くて様子が判らなかったが、周囲の光景に思わず息をのむ。


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谷を、3つの沢が合流するあたりを、すさまじいまでのデブリが埋め尽くしている。写真の右側、白い雪の上を歩くハイカーの姿が見えるが、スケール感がすごいのだ。



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朝が早いと下山も早い。昼の12時20分には、一ノ沢の登山口に戻った。


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朝は真っ暗で、雲間からときおり照らす月明かりも届かず、山麓の緑が萌え盛っている様子にも、気付かなかった。なんとまあ、マゼンタ色の要らない世界とは...。


真夜中過ぎに深い谷の底を歩きに歩いて稜線に立って、雪遊びも下山時の新緑も満喫。カワムさん、どうもありがとう。


※一ノ沢左俣の雪渓をダイレクトに稜線まで登るのは、時期的にもうすぐおしまいだとおもう。小屋が立ててくれている旗竿があるから目印になさると良い。

by yabukogi | 2010-06-07 11:44 | 北アルプス・常念山脈


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