槍と、常念と、別れの時が来た。
西を向いた僕の仕事場の窓。薄汚れたガラス越しに眺められるのは、おおきな常念と槍のとんがり。日々の仕事の合間、ちょっと首を上げるか眼球だけを回せば、その姿を眺めることができたのだ。
冬の朝。きつい徹夜を経て、窓の外にモルゲンロートが始まっていると、たましいが洗われ、救われたものだ。いっぽうでそれは歯がゆくもあり、あの凍てつく稜線に立てば、昇りゆく太陽を眺められるのだと想像され、部屋の中で鳥肌が立つような感覚を覚えたりもした。
季節は巡る。
この窓を、この仕事場を離れる時が来たのだ。
思えば、晴天にくっきりと空をえぐる姿も美しかった。夜明けは薔薇色に、夕方は金色の光に染まる姿も、美しかった。
しかし、何と言っても忘れ得ぬ槍の勇姿とは、これに尽きる。
初夏の気配濃い、信州の5月。沈みゆく太陽が、あの聖なる槍に貫かれる瞬間。これは、旧ブログにも掲載したことのある2008年5月22日のこと。
その2日前...
5月20日には、槍の穂先をかすかに逸れていたのだ。
あたらしい家は、仕事場は、北アを眺めながら...とはいかない。つまりここに、窓から眺めた槍の姿が載ることは、たぶんもう無い。時々、槍に会いに、常念に会いに来てくださったみなさま、済みませんがご了承ください。