2010年 02月 02日

さらば愛しきひとよ

特別な理由があるわけじゃない。僕は酒と食、そして運動について、すべてを見直すことにしたのだ。


いや。強がるんじゃない。シンプルな理由だ。ある時期、足の靭帯や関節が痛み出して、その原因が美食飽食と酒への執着にあることは間違いないのだ。実際、白衣を着た医師が、僕の目の前でいくつかの数値を指摘し、運動が不足しています、また肝機能の低下が目立ちますねとつぶやいたのを確かに聞いたじゃないか。


シンプルで立派な理由じゃないか、生まれ変わるのに。


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僕の大好きなランチメニュー、マヨネーズを忍ばせたチーズトースト。上面を先に、かりっと焼いておくんだ。そこにスプレッドするのは、もちろんマヨネーズ。カロリーハーフなんかじゃいけない。しっかり本物のマヨネーズを塗る。



時をさかのぼる。僕は20代の頃に日本中を旅して歩く幸運に恵まれた。時には野宿を重ねあめ風に叩きのめされ、後ろ姿も汚れさらばえながら。また時にはネクタイを締めて羽田から飛んで、とにかく各地を歩き回ったのだ。それは、このくに各地の味覚が、山海に育まれた美味珍味が、僕の舌から記憶の中へするりと入り込んでくる旅でもあったのだ。新しい土地、その風土に育まれた新しい味、あらたな体験。


いつも最初は驚愕だった。たとえば富山で初めて食べた生の白海老。顎の関節が外れるぐらいの驚愕を経て、その感覚は僕の意識の底でゆっくりと沈殿していく。一度沈殿した感覚がやがて大脳皮質に届いてはじけたとき、それは感動を伴う甘美な記憶として、僕のこころにふかく刻まれたのだった。つまり、あまりに美味くてまた喰いたい、と思ったのだ。だから、カラスミやいぶりがっこや、カニ味噌や子持ち昆布やコノワタやレバーの薫製やアンチョビーや自家製肉味噌を日常的に好んで偏愛を注いで来たことは、厳然たる僕の事実だ。


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チーズをケチっちゃ駄目だ。そこに友人シェフ手製ベーコンのスライスを載せる。ああ、脂身もたっぷりだ... 


ああ、なんと回りくどい。しかし、僕が食べ物のことを書くと、多くの批判が集まるのだ。顰蹙(ひんしゅく)を買うと言ってもいい。だからこそ、食べ物のこと、それも愛する食べ物とのある種永遠の別れを宣言するにあたって、その理由を客観的(どう考えても客観性のかけらもないのだが)にまとめておく(どう考えてもまとまっていないのだが)必要が在ったのだ。


仲間たちと語らって、今年はスリムなボディで夏を迎えよう、ということになった。具体的な目標と実現のための手段も定めた。つまり、旅に出るということ。その旅先、具体的な旅の手段を決めたというわけだ。さようなら、いままでの自分。さようなら、体脂肪。さようなら、過剰な尿酸やコレステロール。


さらば、僕が愛した食べ物たち。別れの儀式が始まった。


トースターの中で、チーズの脂と肉の脂が溶け合ってる気配がする。漂う香り。香ばしさとリッチさの予感。身悶えしながら待つ時間も、甘い追憶に変わるがいい。

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小さなウインナーを載せてみた。


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もちろん手前のがメインのベーコンさ。



さようなら、沖アミの塩辛。白い飯に載せた明太子。飲んだあとの豚骨ラーメン。サバ、アジ、イワシの干物。春も秋も愛し合ったカツヲのタタキ。レバ刺もレバ焼きも。そう、忘れちゃいけないサバ水煮缶詰の煮汁。ああ、いつも官能的なマヨネーズ。そして最後に、毎晩のウイスキー。ほんとうにありがとう。


さて、これで食生活の改善に向けた、別れの儀式は終わった。酒も一週間以上、絶った。あとは運動だ。忙しい、家事がある、子供の相手が... そういうのは、なしだ。だって医師が指導しただろう? 運動しろと。


しょうがない。山にでも、行くか。
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by yabukogi | 2010-02-02 12:32 | 喰い物のこと


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